2022J1参入プレーオフ決定戦が11月13日に行われ、J1リーグ16位の京都サンガF.C.と、J2リーグ4位のロアッソ熊本が対戦。
前半39分、京都の左ウイングFW松田天馬の浮き球パスに反応した豊川雄太がペナルティエリア左隅からシュートを放ち、先制ゴールをゲット。
両軍の命運を分けたポイントは何か。互いの攻防を振り返りながら解説する。

功を奏した“河原封じ”
[4-1-2-3]の布陣で臨んだ京都はハイプレスを仕掛け、熊本のパスワークの要である河原を封殺。
主に自陣右サイドから配球しようとした河原に、京都の左インサイドハーフ武田将平が密着。河原が逆サイドや最終ライン付近に移動した際は、松田、山﨑凌吾、豊川による京都の3トップがマークを受け渡しながら対応。中盤の底の川﨑颯太が敵陣へ飛び出し、河原にアプローチする場面もあった。

「あそこ(河原)が攻撃のスタートだと思っていたので、自由にやらせてボールを回されるのは防ぎたかったです。あと、サンガスタジアムは昨日も高校選手権の(京都府予選)決勝戦が行われたこともあって、少し芝が痛んでいました。相手が慣れていないうちにプレッシャーを掛けて、ミスを誘おうとも思っていました」
川﨑のコメントからも、この試合における京都の狙いが窺える(Jリーグ公式サイトより引用)。コーナーキックでのアシストこそ許したが、セットプレーを除き京都が河原を概ね封じていた。

熊本のハイプレスを巧みに回避
相手のトップ下、平川怜や河原のアプローチにより、川﨑を経由するパスワークを封じられた京都。この点においても抜かりない準備ができていた。
京都が引き分けに持ち込めた最大の要因は、時折ロングボールを織り交ぜ、熊本のハイプレスをいなしたこと。
荻原拓也と白井康介の両サイドバックが、相手のプレスを受ける前にロングパスを前線へ送っていたほか、麻田将吾と井上黎生人の2センターバックも、相手のセンターFW髙橋利樹との2対1の数的優位を活かし、パスの出し手を担った。
なかでも攻撃の起点として存在感を示したのが、GK上福元直人。この試合で自軍の選手中最多のロングパス成功数(8本、データサイト『Sofascore』より)を叩き出した32歳の守護神は、前半38分に相手FW杉山直宏のミドルシュートをセーブ。直後にロングフィードを放つと、このこぼれ球が松田や豊川に繋がり、前述の先制ゴールが生まれている。東京ヴェルディの選手として、2018年にもJ1参入プレーオフ決定戦を経験しているベテランGKが、相手のハイプレスに晒されている味方フィールドプレイヤーを持ち前のパスセンスで手助け。得点にも絡んでみせた。上福元が今回の引き分けの立役者と言って差し支えないだろう。

布陣変更で熊本の猛攻凌ぐ
同点ゴールを奪われた直後の後半25分、京都のチョウ・キジェ監督は佐藤響、ピーター・ウタカ、本多勇喜の3人を投入し、布陣を[3-4-2-1](自陣撤退時[5-4-1])に変更。
後半12分に投入された熊本の俊足FWターレスに手を焼き、自陣左サイドを攻略されかけていたものの、5バックに布陣を変えたことで、4バックでは開きやすいセンターバックとサイドバックの間や、ハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)を埋めることに成功。麻田と井上のカバーリングエリアを狭める効果も見られた。

「(プレスを)はがされる場面もありましたし、逆にうまく(ボールを)刈り取ってチャンスも作れました。
京都のDF白井も試合終了後に、自軍の守備のメリハリについて手応えを口にしている(Jリーグ公式サイトより)。かねてより、試合展開に応じて4バックと5バックを使い分けていた京都が、相手のキーマンを封じる緻密なハードワークと、堅固な自陣撤退守備でJ1リーグ残留を手繰り寄せた。
今季のJ1リーグにおける失点数(38)が全18クラブ中2番目に少ない数値と、守備面での健闘が光った京都の来季以降の課題は、敵陣ゴール前でのプレーの質。同じく今季のJ1リーグで、決定機創出数が全18クラブ中4番目に低い49回(データサイト『Sofascore』より)に留まったほか、得点数も同リーグ内で2番目に少ない“30”。来季に向けて、相手の守備隊形を横に広げ、ハーフスペースを突くためのパスワークに磨きをかける必要があるだろう。かろうじてJ1残留を果たした京都の進化に期待したい。