6月10~11日に第17節を終え、早くも2023シーズンを折り返した明治安田生命J1リーグ。現在6試合連続で白星から遠ざかっているアビスパ福岡に、頼りになる存在が戻ってきた。

2016年のリオデジャネイロ五輪にチーム最年少(当時19歳)で出場し、日本代表として15試合2得点を記録している26歳のMF井手口陽介だ。

ここ数年不遇の時を過ごしてきた井手口は紆余曲折を乗り越え、6月3日に行われたJ1第16節で古巣ガンバ大阪相手の試合に約3か月振りとなる出場を果たすと、7日には天皇杯(JFA第103回全日本サッカー選手権大会)FC今治戦に、11日にはJ1第17節の名古屋グランパス戦にフル出場した。

「プレーの良し悪し以前に、90分を通して出られたことが1番ポジティブ」と、足元を見つめながら、一歩一歩着実に歩みを進めている井手口。不遇の経緯と、福岡にとっての存在について、改めて振り返る。

元日本代表MF井手口陽介復活の時!不遇の経緯とアビスパ福岡の期待

度重なるアクシデント

ここまで不運に見舞われた選手も珍しい。2014年、ガンバ大阪のユースチームから飛び級でトップチームに入り、プロとして継続的な出場機会を得られるようになった井手口。2017年にヴァヒド・ハリルホジッチ監督から評価を受け日本代表へ選出されると、2018FIFAワールドカップロシア大会(ロシアW杯)出場を懸けた予選(オーストラリア戦)で代表初となるミドルシュートを突き刺し、21歳ながらW杯出場権獲得に大きく貢献した。

圧倒的な運動量とプレー強度は日本代表の中でも稀有な存在であり、その活躍は新たなスターの誕生を予感させる。翌2018年1月には、当時イングランド2部のリーズ・ユナイテッドへと完全移籍を果たした。一見順調に見えた井手口の選手生活は、ここから一転、徐々に歯車が狂い出す。

イギリス労働ビザの発行基準を満たしていないことを理由に、2017/18シーズンはリーズで戦えず、当時スペイン2部のクルトゥラル・レオネサに期限付きでレンタル移籍。翌シーズンようやくリーズに復帰かと思った矢先、新指揮官マルセロ・ビエルサ監督の構想から外れ、ドイツ2部グロイター・フュルトに期限付きでレンタル移籍となる。結局、移籍先では定位置を掴めないまま、2019年8月にG大阪へ復帰した。

慣れ親しんだ大阪で徐々に本来の姿を取り戻した井手口は、2021年末にスコットランドの絶対王者セルティックへと2度目の海外挑戦を決断。日本人選手が多く所属するセルティックでの成功が期待されたものの、今度は怪我に悩まされることになった。

UEFAヨーロッパリーグ(EL)出場権を懸けて戦うカップ戦(スコティッシュカップ)で初スタメンを飾った際、足首を踏みつけられるタックルを受け試合途中で負傷交代。ポジション争いに加わろうというタイミングで約1か月間の離脱を強いられてしまう。その後も負傷を繰り返し、セルティックで得られた出場機会はごくわずかだった。

「プレーしたい」という強い思いで再起を図るべく、井手口は期限付き移籍を決断した。約1年間試合から遠ざかっていた選手に届いた唯一の正式オファーが、生まれ故郷のクラブ、アビスパ福岡からのものだった。

元日本代表MF井手口陽介復活の時!不遇の経緯とアビスパ福岡の期待

福岡が生んだスター選手

出身地とはいえ、井手口が福岡で過ごしたのは小学生まで。受け入れてもらえるか不安もあったようだが、本人が思う以上にクラブとサポーターにとって、井手口加入の影響は大きなものだった。知名度があり「元日本代表」の肩書きを持つ選手は貴重な存在。地元メディアからの扱いが決して良いとはいえない福岡にとって、願ってもない獲得となった。

J1復帰を果たした2021シーズン以降の福岡は、ボランチは常に人材不足で、チームの心臓であるMF前寛之のタフさに依存していた。2021年夏に加入したMF中村駿が一定の安定感をもたらしたものの、層の薄さ問題が解決することはなかった。

チームの軸となる「球際の強度」がハイレベルな井手口は、そんな福岡にとってまさに打って付けの存在だった。

また、福岡のサポーターは地元への愛着が強いとされ、地元出身選手への愛情も深い。故郷を離れて長いとはいえ「地元が生んだスター」である井手口には大きな期待が寄せられた。

ところが、サッカーの神様はまたしても彼に試練を与える。2023シーズンJ1第3節(3月4日)の柏レイソル戦を初スタメンで飾り、プレー面でも「らしさ」を感じさせていた井手口は、前半終了間際にまさかの負傷。しかも、右足関節外果骨折で「全治3か月」という重症だった。セルティックでの悪夢を思い起こさせる、そんなスタートとなってしまったのだ。

元日本代表MF井手口陽介復活の時!不遇の経緯とアビスパ福岡の期待

あのミドルシュートを再び!

しかし、これまで2度の海外移籍で経験した苦境や負傷は、井手口にとって決して無駄な時間ではなかった。福岡加入後すぐの負傷にも「試合の時はちょっときつかったですけど、翌日からは大丈夫でした」と気持ちを素早く切り替えて対応する。

実戦復帰を目指すモチベーションも高かったのだろう。全治期間とされていた「3か月」直後、前述のJ1第17節(6月3日)ガンバ大阪戦にて復帰。古巣となる大阪との対戦は、思い入れの強い相手ということもあり、試合に向けて見事に調整しベンチ入りを果たした。

更に後半16分からの約30分間は、ピッチに立つことにも成功した。

復帰前「チーム(の調子)どうこうより、まず自分のコンディションを上げていかないと話にならない」と語っていた井手口だが、復帰後は「チームの役に立ちたい」と話しているように、良いプレーでチームに貢献したいという思いは強いようだ。

福岡は現在、5月3日のJ1第11節FC東京戦を最後に白星がなく、一時は3位だった順位も二桁台まで落ちてしまった(現11位)。だが、昨2022シーズン(結果14位)も2021シーズン(結果8位)も、後半から終盤に連勝して順位を上げており、ここから巻き返す可能性は十分にある。

井手口に試合勘が戻り、本来のボール奪取能力や運動量が遺憾なく発揮され、日本中を沸かせたあのミドルシュートを再び見せつけてくれれば、福岡の成績も上方修正されるに違いない。

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