明治安田生命J1リーグに所属するアビスパ福岡が、9月10日に開催されたJリーグYBCルヴァンカップ準々決勝でFC東京相手に2-0の勝利を挙げ、2戦合計2-1として逆転でのベスト4進出を決めた。

8月30日には天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会のベスト4進出も決めている福岡は、2023シーズンJクラブ唯一となる2つのカップ戦での4強入りを達成。

初の頂点に向けてまた1歩前進となる。

ここではルヴァン杯準々決勝で、福岡にあった絶対に負けられない事情に迫る。

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「凌我と共に国立へ」アビスパ福岡ルヴァン杯&天皇杯4強入りの裏側

ルヴァン杯準々決勝第2戦時の気迫

9月10日、福岡のベスト電器スタジアムで行われたルヴァン杯準々決勝第2戦。選手入場時、ピッチに現れた福岡の選手たちは全員が同じTシャツを着用した。背中には「27」、胸には「共に乗り越えよう、凌我」の文字。スタジアムには「#凌我と共に国立へ」と書かれた用紙が用意され、サポーターによって掲げられた。

これは6日、ルヴァン杯準々決勝第1戦、FC東京戦で負傷した背番号27のFW佐藤凌我に向けたメッセージだった。第1戦を0-1で落としていた福岡が準決勝に進出するには、2点差以上での勝利が必要という簡単ではない状況だったが、チーム、サポーターには気迫がみなぎっていた。

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FW佐藤凌我の負傷状況

接触が当たり前のサッカーにおいて、負傷は珍しいことではない。第1戦時の佐藤の負傷も悪意のない接触によって起きた不運によるものだ。ただ、負傷の内容があまりに大きなものだったことも事実である。試合翌日の7日にクラブが発表した診断結果は、左膝前十字靭帯損傷と左膝外側半月板損傷。全治約8か月という大怪我だった。

佐藤は東京ヴェルディから2023シーズン福岡に完全移籍。

J1初挑戦ながらFWやサイドハーフとしてリーグ戦で4得点1アシスト、天皇杯では4試合で4得点を記録してきた。地元福岡出身で8月15日に発表された「第11回アビスパ福岡選抜総選挙」では、堂々の総合2位に入るなどの人気選手の1人。長期離脱の報を受け悲観にくれたサポーターも少なくなかった。

「凌我と共に国立へ」アビスパ福岡ルヴァン杯&天皇杯4強入りの裏側

「#凌我と共に国立へ」入場者8,659人

しかし、負傷した佐藤自身は前向きだった。自身のSNSでは下記のように投稿した。

「リリースの通り長期離脱することになりました。チームがこれからという時に怪我をしてしまい申し訳ないです。サッカーをしている以上怪我をしてしまう可能性もさせてしまう可能性もあります。試合後相手選手とも話しましたし、僕自身前向きに捉えているのでこれ以上誹謗中傷は無しでお願いします!必ず強くなって戻ってきます」

これを受けて多くのサポーターがSNSで「#凌我と共に国立へ」とタグを付け、必死に前を向いたのである。第1戦終了後の段階で5,955人だった第2戦の来場見込数は日を追うごとに急増し、実際の入場者は8,659人を記録。ルヴァン杯グループステージの3試合の入場者はいずれも3,000人台であったことからも、多くのサポーターが急遽駆け付けたことが分かる。

「凌我と共に国立へ」アビスパ福岡ルヴァン杯&天皇杯4強入りの裏側

FWルキアン、DF井上も負傷の激闘

そんな準々決勝第2戦は、前半17分にFWルキアンが負傷交代となり、なかなか効果的な攻撃を見せられない展開に。それでも、1つのプレーで流れを変えることに成功する。

前半38分にDF井上聖也が右サイドからゴール前へフィードを送ると、DF小田逸稀が胸で落としてFW山岸が左足を振り抜く。

先制点で流れを掴むと、前半アディショナルタイムにはコーナーキックをDF小田が頭で合わせて追加点。その後は自慢の堅守で決定機を許さず、狙い通り2-0で勝利した。

試合後のヒーローインタビューでは、1得点1アシストを記録したDF小田のもとに佐藤が登場。東福岡高校時代の同級生であり親友とも呼ぶべき間柄の2人は抱擁し、小田の目には熱いものがこみ上げているように見えた。サポーターも試合後、通常アウェイ戦時に歌われる「博多へ帰ろう」のチャントを「国立へ行こう、凌我と行こう」に変え、国立競技場で行われる決勝進出とクラブ初タイトル獲得を誓った。

これまで以上の一体感をみせ、難敵FC東京を撃破した福岡。ただし、現時点ではまだ何も手にしていない。クラブ史上初となる国内3大タイトル(J1リーグ 、天皇杯 、ルヴァン杯)での決勝進出、そしてタイトル獲得に向けては、次の準決勝を突破しなければならない。

「凌我と共に国立へ」アビスパ福岡ルヴァン杯&天皇杯4強入りの裏側

さらなる一体感で準決勝の難敵撃破へ

10月11日に第1戦、15日に第2戦が予定されているルヴァン杯準決勝の相手は、名古屋グランパスだ。福岡がJ1で戦う2021年以降のリーグ戦5試合ではいずれも敗れており、また2017年のJ1昇格プレーオフ決勝時にも、目の前で昇格達成を見せられた相手でもある。

また、10月8日に予定されている天皇杯準決勝の相手は、川崎フロンターレ。こちらもまた2021年以降の5試合で1勝4敗と相性は良くない。

1998年のJ1参入決定戦では3-2で勝利した相手であり、やはり因縁の相手といえる。

ルヴァン杯、天皇杯ともに決勝戦の地である国立競技場まではあと1歩。ユニフォームに星を付けるまではあと2歩だ。佐藤に加え、FC東京第2戦ではFWルキアンとDF井上が負傷交代となっており、貴重な戦力を欠くことになるかもしれないが、福岡にとって懸けるものがある。素早い攻守の切り替えとタイトな守備、そして想いの強さを武器に、まだ見ぬ景色に向けて歩みを進めていく。

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