10月11日に開催されたYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)準決勝第1戦で、名古屋グランパスに1-0で勝利したアビスパ福岡。試合から一夜明けた12日、福岡の長谷部茂利監督がオンライン取材に応じた。

その時のコメントから、福岡でのマネジメントや第2戦の戦い方、試合運びの考え方などを窺い知ることができた。

ここでは、長谷部監督の取材での発言を交えつつ、初のタイトル獲得に向け士気が高まるチームとそれを取り巻く地元状況について紹介しよう。

アビスパ福岡がスタメン10人を入れ替えても勝てた理由【ルヴァン杯準決勝】

スタメン10人を入れ替えても勝てた理由

10月8日に開催された天皇杯(全日本サッカー選手権大会)準決勝では、惜しくも川崎フロンターレに2-4で敗れた福岡。それからわずか中2日で迎えたルヴァン杯準決勝の名古屋戦では、スタメン10人を入れ替えて見事勝利を収めた。そのことを問われた長谷部監督は、マネジメントについて自身の考え方を交え次のように回答した。

「考え方のところが他の方と違うのかもしれません。そもそも中2日でサッカーの公式戦をやるということ自体が難しいことだと思いますが、日程については私が変えることはできません。じゃあ何を変えるかと言ったら、それに挑めるようにという選手たちのマネジメントです。『なんで俺、元気なのに試合に出られないんだ』という選手も当然いますし『俺、身体きついのになんで無理に試合に出されるんだろう』という選手もいると思います。

全員同じではないと思うんですけど、無理をしてもらう場合もあるし、私の考え方を含めコンディショニングコーチと話して1番いいものを選んでいるつもりです。そうすることを選手にも分かってもらっています。突然10人代えるということが、アビスパ福岡の選手たちにとっては普通です。

それに対して、不満は多少なりともあると思います。

選手たちは全試合フルタイム出たいものです。でも出られなかったり、メンバーにも入らなかったりということはあります。そこは私の考えのもとで選手たちが動いてくれていますし、プレーしてくれています。そんな風に少しずつ作ってきているので、いきなり昨日(ルヴァン杯準決勝第1戦)で(10人入れ替えを)やったわけではありません」

福岡の監督に就任した1年目の2020シーズンから、スタメンを固定せず常に状態の良い選手を起用してきた長谷部監督。今回の勝利は、これまでの約4年間で積み上げたものを発揮した結果ということになるだろう。

引き分け以上で決勝進出となるルヴァン杯準決勝の第2戦(10月15日)でも、基本的に戦い方を変える気はなさそうだ。取材時は最大の目標が決勝進出であることも強調した。

「(戦い方は)これまで同様ですね。全力でぶつかっていく。全力で攻撃するし、全力で守るし、これまでと一緒です。まだ伝えていませんが、選手にもそういう風に伝えようと思っています。ただ、引き分け以上で勝ち抜けになることは当然選手たちも分かっています。

次の試合に勝つのが1番いいんですけれども『勝ち抜ける』ということが最も重要で、そういう観点からゲームに入っていきたいなと思います。しかし、そうは言っても受け身になってしまうと良くないので、自分たちの戦い方の時間帯をできるだけ長くできたらいいなと思っています」

勝利を目指しつつも勝ち抜くことを最優先に考える。リアリストであり、状況に応じて柔軟に対応することをこれまでも示してきた長谷部監督。一時は「ウノゼロ(1-0での勝利)」が福岡の代名詞となっていたほど、その考え方は選手にも浸透している。

アビスパ福岡がスタメン10人を入れ替えても勝てた理由【ルヴァン杯準決勝】

意識すべきはボールの位置

福岡は2023シーズンのJ1リーグで、2番目にボール支配率が低い。一方で積極的に高い位置でのボール奪取を狙っている。名古屋との準決勝第1戦でも、MF紺野和也の積極的なプレスから決勝点が生まれた。その狙いについて、監督としての考えの一端を語ってくれた。

「ボールが自分たちのゴールに近いところにあれば失点する可能性が高いし、相手ボールであっても、相手のゴールに近いところにあれば得点するチャンスがあります。私の中ではそういう考え方です」

アビスパ福岡がスタメン10人を入れ替えても勝てた理由【ルヴァン杯準決勝】

「アビスパここにあり」という域に入っていきたい

天皇杯とルヴァン杯、2つのカップ戦で準決勝に進出したことやルヴァン杯準決勝の第1戦に勝利したことで、地元メディアを中心に福岡の試合報道が大幅に増加しつつある。名古屋戦での勝利をトップニュースで報じる地元テレビ局もあったほどだ。そのことについて、長谷部監督はこのように語っている。

「マスメディアにこれだけ扱ってもらうためには勝ち上がらないといけないし、勝ったら『何が起きているんだ、アビスパ!』となる。

その『何が起きているんだ』から『アビスパここにあり』というような、認めてもらえるような域に入っていけたらなと思っています。

今は『どうした、なかなかやるな』というようなところだと思うんですけれども(ルヴァン杯で)2年連続ベスト4に入ったことであったり、天皇杯は負けてしまいましたがカップ戦両方ともベスト4に入ったことであったり、リーグ戦も少しずつ順位が上がってきたことであったり。そういうことが『アビスパここにあり』『福岡に強いチームがあるよ』と認められるような要因になるだろうし、今そこに手をかけているのでそうなったらいいなと思っています」

クラブとしても観客動員数増加に繋げようと積極的に施策を行っており、福岡のホームであるベスト電器スタジアムに横浜F・マリノスを迎えて行う10月28日のJ1リーグ第31節に、2万人以上の観客を目指そうと「アビスパ2万人プロジェクト」を始動した。福岡市地下鉄では6両1編成を丸ごとジャックした『アビスパトレイン』が運行中。思わず笑えるひと言で選手を紹介する宙吊りポスターや現状の熱量を伝えるサポーターからのコメントなどが車内を埋め尽くしている。試合当日はタレントのなかやまきんに君が来場し、会場を盛り上げる予定だ。

積み上げたスタイルでルヴァン杯準決勝第2戦を勝ち抜き、初タイトルを獲得すること。福岡の地で存在感を大幅に高めること。現在チームが好調なだけに、この機会に乗じて2つの目標を達成してほしいところだ。

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