国立競技場で11月4日に開催される2023YBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)の決勝戦。2016年以来7年振りの優勝を目指す浦和レッズと対戦するのは、クラブ史上初のタイトルを狙うアビスパ福岡。
快晴の下で行われた練習後、キャプテンのDF奈良竜樹とエースのFW山岸祐也、長谷部茂利監督が取材に応じ、初タイトルが懸かる試合への想いを語った。

DF奈良竜樹「小手先の物はすぐ剥がされる」
オフ明けのこの日、練習場には和気あいあいとした普段通りの雰囲気が漂っていた。しかし、DF奈良竜樹はルヴァン杯決勝に向け、徐々に緊張感が高まる現状を次のように語った。
「僕の中ではまだいつも通りのトレーニングでしたけど、(決勝まで)あと数日となってくると、カウントダウンと共にどんどん昂ぶる感情と、いろんな不安や緊張もあったり、そういうものが出てくると思います」
直近のリーグ戦では第30節で川崎フロンターレに2-4、第31節は横浜F・マリノスに0-4と大量失点での敗北が続いている福岡。アグレッシブなチャレンジの結果ではあるものの、決勝に向けては切り替えが欠かせないだろう。
「リーグ戦では2試合連続という悔しい結果の中で今週を迎えています。チームとしてもそうですけど、一人ひとりがポジティブに気持ちを切り替えられるように、できる働きかけをしたいです。僕個人に関しても、もう1回リセットして良いマインドで臨めたらいいなと思っています」
長谷部茂利監督の就任後、一戦必勝の試合に向けてチームが常に大切にしてきた“まとまり”を、奈良も改めて重要視しているようだ。
「リーグだと『次の試合、また次の試合』と続いていく中で、ルヴァン杯はこの1試合で終わる。ピッチに立てる選手とそうでない選手、いかにチーム全員が勝利のためにまとまれるか。そういう空気は伝染するものだと思っているので、全員が勝利のためにできることを精一杯やれるかどうかが大事じゃないかなと思います」
今2023シーズンの福岡は、ハードワークと堅守速攻に加えてパスワークが向上。
「いろいろブラッシュアップしてきた部分もあるし、それが結果として出せた試合もあった。ただ、自分たちがJ1に上がってから積み上げてきたものは、監督が常に言っている『全員で攻撃して全員で守備する』っていうところ。そのベースがなければ、小手先の物はすぐ剥がされると思っています。それだけで勝負するのは絶対に無理なので。在籍年数や国籍、それぞれのキャリアも違いますが、今まで積み上げてきた部分があって、その上でいろんなトライをしている。そういうものを全部捨て去って新しいものを構築しているわけではないので。全員で守ったり、際のところで身体を張ったり、セカンドボールをみんなで拾ったりを大事にしたい。一見して綺麗じゃなくても、派手じゃなくても、それを全面に出して(優勝を)勝ち取りたいなと思っています」

FW山岸祐也「サポーターと一緒に喜びたい」
すでに決勝戦が待ち遠しい様子のFW山岸祐也は、この日の練習でも持ち前の明るさを発揮していた。
「今日はオフ明けだったんですけど、初めにシゲさん(長谷部茂利監督)が『楽しもう』と言っていて。今回、国立(競技場)が満員になることが予想されているので凄い楽しみです。アビスパの歴史を変えられるチャンスでもあるので、ワクワクする充実した1週間になるのではと思っています」
浦和レッズには、DFマリウス・ホイブラーテンとDFアレクサンダー・ショルツという屈強なセンターバック陣が揃っており、リーグ戦では31試合で22失点とJ1最少を記録している。そんな浦和の守備を崩すのは容易ではない。
「ヘディングで競っている時に相手のセンターバック2人が嫌がって、向こうがちょっと後手を踏んでいる感じもしていた。引かずに戦いに行くところは絶対やらなきゃいけないし、それだけじゃなくて相手の4バックの前で受けたり、センターバックを釣ったり、ポジショニングを崩したり動かしたり相手の嫌なことを常に狙いたい」
決勝戦の舞台は国立競技場。その立地から、浦和サポーターの割合が多いと予想される。しかし、福岡からも飛行機や新幹線、フェリー、夜行バス、自家用車など様々な手段で大勢のサポーターが駆け付けるだろう。山岸の目は、そんな福岡サポーターたちに向けられていた。
「(観客席が)どんな割合だろうが、自分たちを応援しに来てくれる福岡のサポーターがいるわけで、自分はその人たちのために頑張ろうという気持ちでやりたいし、勝ってその人たちと一緒に喜びたいと思っています。絶対に勝ちたいです」

長谷部茂利監督「準優勝ではなく優勝」
2022AFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)を制し3度目のアジア王者となった浦和を、長谷部監督は敵ながら高く評価していた。
「ゲームの持っていき方、試合の締め方も含めて上手ですね。強いです。また、相手(浦和)のサポーターも数多く詰めかけると思うので、雰囲気を作ることも上手だと思います。(守備も)能力の高い選手が個人で防いでいる面とグループのところでうまく押さえている部分がある。
ビッグタイトルの常連である浦和を下し王座を獲得するのは簡単ではないだろう。長谷部監督はそれを十分理解したうえで、来季以降も自身が指揮を執ることが決まったクラブの悲願達成を誓う。
「クラブが成長を遂げてきた証として、準優勝ではなくて優勝があるかないかでは違うと思う。これからまた先へ進んでいく時、上を目指すうえでは次に勝つことがあらゆる意味で良い方に向かうと思うので、ぜひ勝ちたいです」
チームを後押しするサポーターに対しては「皆さんの思いを背負って戦います。応援よろしくお願いします」とカメラを見据えながらシンプルで力強いメッセージを送った。
この日の練習には怪我で離脱していた選手も合流し、決戦を前に最後の調整を行った。通常のリーグ戦では前泊が通例となっているが、重要な一戦を万全のコンディションで迎えるべくチームは前々泊を予定している。ベンチ入りしない選手も同行し、チーム一丸となって挑む大舞台。共に歩んだサポーターたちの声援を味方につけ、念願の白星を手中に収めることができるのか。クラブ史上初となるビッグタイトルの獲得は目前だ。