2024年のアメリカ大統領選挙で、132年ぶりの任期が連続しない形での再選を果たしたドナルド・トランプ大統領は、前政権時よりも強まった「自国第一主義」に基づき、移民の排除、地球温暖化対策の廃止という排他的な政策を次々と実行に移している。
特に国際経済に影響を及ぼすとされるのが、4月2日に発表された相互関税だろう。
サッカー界の移籍金等に関わっては、結論から先に言ってしまうと関税がかけられることはない。移籍金は金銭的な取引であり物理的な商品ではないため、関税(輸入税)の対象外だからだ。サッカーに限らず、選手はチームの「資産」として扱われる。
しかし一方で、例えばイギリスでは国内移籍には20%のVAT(付加価値税)が課されるが、国際移籍には適用されない。アルゼンチンでは移籍金に最大25.7%の追加料金がかかるが、これも関税ではなくVATや手数料だ。税制は国によって異なるため複雑である。
ここでは「サッカー界と税金」について深掘りしたい。
かつて、世界的スターが集結した中国スーパーリーグ(CSL)だ。全盛期はCSLの全クラブが費やした移籍金総額は約2億8,600万ユーロ(約463億円)に達した。これは当時の移籍市場でプレミアリーグ全クラブが投じた強化費とほぼ同額だった。
ところがCSLは新ルールを導入し、移籍金に対する改革を断行する。日本円で約7億円を超える移籍金が生じる国際移籍の場合、そのクラブには100%の関税がかけられることになった。簡単にいえばクラブは一流外国籍選手を獲得しようとすれば、移籍金の2倍の資金を用意しなければいけなくなった。
関税分は中国当局に収められ、国内における若手選手の育成に費やされることになった。その理由は中国代表の強化とされたが、今となっては、その関税分はどこに消えたのか知る由もない。
20%のVATは商品やサービスについて付加された価値に対して課される消費税である。移籍金にはVATだけでなく、代理人費用やリーグへのリベート(プレミアリーグでは4%)などの追加コストが含まれる。これらは全て税金の一種だが、関税とは異なり、クラブの運営コストの一部として扱われる。また、選手が移籍金の一部を受け取る場合、その金銭は所得税の対象となる。
クラブは選手の移籍金を「資産」として扱い、契約期間にわたって減価償却することができる。これにより、クラブは会計上の利益を調整し、税負担を軽減することが可能だ。
2003年にチェルシーを買収したロマン・アブラモビッチ氏は、その資金力を武器に多くの一流選手を獲得したが、長期契約を結ぶことで年間の会計上の支出を抑えるという戦略を取った。これにより、FFP(ファイナンシャルフェアプレー)規則に抵触することなく、大型補強を実現させた。その手法は現在、欧州ビッグクラブのスタンダードとなっている。
プレミアリーグのクラブは、一般の企業と同様に法人税の対象となる。イギリスの標準法人税率は19%だが、2024年4月からは25%に引き上げられた。この税率の引き上げは、クラブの財務に大きな影響を与えている。
放映権収入・チケット販売・スポンサー・グッズ販売・選手の移籍といった様々な収入に対して法人税が課されるが、クラブは様々な経費を計上することで課税対象となる利益を調整している。主な経費項目には、選手や従業員の給与、施設の維持費、移籍金の償却費などがある。
特筆すべきは、プレミアリーグの放映権収入の巨額さだ。2023/24シーズンでは最下位のクラブでさえ、ドイツのブンデスリーガ優勝クラブの約2倍の放映権料を受け取っている。この莫大な収入が、プレミアリーグ各クラブの財務基盤を支え、高額な移籍金や給与の支払いを可能にしている。
しかし2017年以降、CRS(共通報告基準)の導入により、各国の税務当局の間で金融口座情報が自動的に交換されるようになった。
また、クラブ側もあらゆる税務対策を駆使している。選手の移籍金を一括で支払うのではなく分割払いにすることで課税所得を平準化する手法が用いられている。
イギリスが2020年にEUから離脱(ブレグジット)したことで、EU内選手の獲得が厳しくなった。それまでEU内選手の獲得は比較的容易だったが、ブレグジット後は就労ビザの取得が必要となり、特に若手有望選手の獲得が難しくなった。
また、EU域内でのVAT還付の仕組みが変更されたことで、クラブの海外遠征や国際大会参加時のコストも増加。さらに、ポンド安の影響で海外選手の獲得コストが上昇し、クラブの財務に追加的な負担となっている。
これらの変化に対応するため、プレミアリーグのクラブは、国内若手の育成強化、南米やアフリカ、アジアなどEU外からの選手獲得、財務戦略の見直しと経費削減を行っている一方で、チケット代が高騰し、「もはやプレミアリーグのスタジアムに入れるのはお金持ちと観光客だけ」と揶揄されるまでになってしまった。
肥大化を続ける欧州サッカー界と税務当局のせめぎ合いは、今もってなお続いており、これからも続くだろう。
ブラジルのクラブから日本のクラブへ選手が移籍した場合、日本のクラブからブラジルのクラブへ移籍金の支払いが行なわれる。当然20%の税がかかると思われるが、日本とブラジルの租税条約ではサッカー選手の輸出入(移籍金)が免税措置の対象項目となっているのだ。
この条約は二重課税を防ぐためのもので、ブラジル人選手は軽減税率や一部免税措置の対象となる。そのため、租税条約の結ばれていない国でプレーするよりも日本でプレーする方がブラジル人選手にとってメリットは大きい。
仮に100万ドルの移籍金がかかった場合、一旦は約125万ドルを支払うのだが、税として上乗せされた約25万ドルは後に還付される。また、ブラジル人選手が受け取る(クラブが支払う)年俸も軽減税率の対象となり、Jクラブにとってもメリットがある。
租税条約が適用されるのは、ブラジルのほか1、2か国しかない。EU圏選手やアルゼンチン人選手、韓国人選手がJリーグに来てもこの免税の対象にはならない。
ブラジルにはプロサッカー選手が1万人以上いるとされ、年間に800人以上が海外に移籍しているという。ブラジルでは契約書があっても給与遅配など日常茶飯事。一方、日本ではそうしたことはほぼ皆無だ。さらに入金日が土日や祝祭日だった場合、その振り込みが前倒しされることにブラジル人選手は驚くという。
加えて、ブラジル人選手の所得税は自国内では基本27.5%だが、日本に来ることでその負担が軽くなる。治安の良さも相まって、日本からのオファーを待ち、移籍が叶えば家族揃って、日本での快適な生活を送ることを望むのは自然な成り行きだろう。
一時期は中国スーパーリーグのマネーゲームに押され気味だったJリーグだが、日本の住環境や日本人の信用度、ホスピタリティーの点を勘案し、日本を選ぶブラジル人選手も少なくないのだ。
このルールの適用には、過去2年間において、オランダ国境から150km以内で16か月以上就労していないことなどが条件だ。よって国境を接しているドイツやベルギーのチームにいた選手に対しては適用されないこともある。しかしこの「30%ルーリング」も縮小傾向にあり、先行きは不透明だ。
また、かつて日本代表DF長友佑都(ガラタサライ/2018-2020)や元日本代表MF香川真司(ベシクタシュ/2019)がプレーしたトルコ1部リーグのスュペル・リグ(現在は元U-23日本代表MF松木玖生がギョズテペSKでプレー)。
トルコの所得税率は15~35%と他の欧州諸国と比較すると若干低めだが、VATは18%と他のヨーロッパ諸国とほぼ同じだ。そもそもトルコはEU加盟国ではなく、国土の97%がアジアにあり、人口7,000万人の大半がイスラム教徒だが、サッカーではUEFA(欧州サッカー連盟)に加盟している。
トルコでプレーするサッカー選手の税金面で特徴的なのは、手取り保証契約が多い点だ。選手は手取り額が保証され、税金はクラブが立て替え払いし、手取り額から報酬総額を逆算する「グロスアップ方式」が採用されているケースが多い。
このように、サッカー界と税金は複雑に絡み合っている。脱税で検挙される選手が多いケースは、法律の立て付けと運用面での解釈の違いによるものがほとんどだ。金銭面を専門家に任せていても、こうした落とし穴にハマるケースもある。
それでもサッカー選手が高額納税者であることは変わりない。「お金」や「税金」という視点からサッカー界を覗くと、また違った光景が見られるかもしれない。
特に国際経済に影響を及ぼすとされるのが、4月2日に発表された相互関税だろう。
トランプ大統領は「まずは全ての国から始めることになる」と述べている。
サッカー界の移籍金等に関わっては、結論から先に言ってしまうと関税がかけられることはない。移籍金は金銭的な取引であり物理的な商品ではないため、関税(輸入税)の対象外だからだ。サッカーに限らず、選手はチームの「資産」として扱われる。
しかし一方で、例えばイギリスでは国内移籍には20%のVAT(付加価値税)が課されるが、国際移籍には適用されない。アルゼンチンでは移籍金に最大25.7%の追加料金がかかるが、これも関税ではなくVATや手数料だ。税制は国によって異なるため複雑である。
ここでは「サッカー界と税金」について深掘りしたい。

中国で関税100%の例外
関税は国際的な商品の移動に対して課される税金であり、基本的には移籍金のような金銭的な取引には適用されない。しかし例外もある。かつて、世界的スターが集結した中国スーパーリーグ(CSL)だ。全盛期はCSLの全クラブが費やした移籍金総額は約2億8,600万ユーロ(約463億円)に達した。これは当時の移籍市場でプレミアリーグ全クラブが投じた強化費とほぼ同額だった。
ところがCSLは新ルールを導入し、移籍金に対する改革を断行する。日本円で約7億円を超える移籍金が生じる国際移籍の場合、そのクラブには100%の関税がかけられることになった。簡単にいえばクラブは一流外国籍選手を獲得しようとすれば、移籍金の2倍の資金を用意しなければいけなくなった。
関税分は中国当局に収められ、国内における若手選手の育成に費やされることになった。その理由は中国代表の強化とされたが、今となっては、その関税分はどこに消えたのか知る由もない。

プレミアリーグにおける税金の流れ
プレミアリーグにおける移籍に伴う金銭の流れは複雑で、税務上も特殊な扱いを受けている。しかし、移籍に関連する様々な取引が課税の対象となっている。20%のVATは商品やサービスについて付加された価値に対して課される消費税である。移籍金にはVATだけでなく、代理人費用やリーグへのリベート(プレミアリーグでは4%)などの追加コストが含まれる。これらは全て税金の一種だが、関税とは異なり、クラブの運営コストの一部として扱われる。また、選手が移籍金の一部を受け取る場合、その金銭は所得税の対象となる。
クラブは選手の移籍金を「資産」として扱い、契約期間にわたって減価償却することができる。これにより、クラブは会計上の利益を調整し、税負担を軽減することが可能だ。
2003年にチェルシーを買収したロマン・アブラモビッチ氏は、その資金力を武器に多くの一流選手を獲得したが、長期契約を結ぶことで年間の会計上の支出を抑えるという戦略を取った。これにより、FFP(ファイナンシャルフェアプレー)規則に抵触することなく、大型補強を実現させた。その手法は現在、欧州ビッグクラブのスタンダードとなっている。
プレミアリーグのクラブは、一般の企業と同様に法人税の対象となる。イギリスの標準法人税率は19%だが、2024年4月からは25%に引き上げられた。この税率の引き上げは、クラブの財務に大きな影響を与えている。
放映権収入・チケット販売・スポンサー・グッズ販売・選手の移籍といった様々な収入に対して法人税が課されるが、クラブは様々な経費を計上することで課税対象となる利益を調整している。主な経費項目には、選手や従業員の給与、施設の維持費、移籍金の償却費などがある。
特筆すべきは、プレミアリーグの放映権収入の巨額さだ。2023/24シーズンでは最下位のクラブでさえ、ドイツのブンデスリーガ優勝クラブの約2倍の放映権料を受け取っている。この莫大な収入が、プレミアリーグ各クラブの財務基盤を支え、高額な移籍金や給与の支払いを可能にしている。
しかし2017年以降、CRS(共通報告基準)の導入により、各国の税務当局の間で金融口座情報が自動的に交換されるようになった。
これにより海外口座を利用した租税回避が不可能となった。

イギリス、EU離脱による変化
一方で、合法的な税金対策も存在する。例えば、選手が自身の肖像権を管理する会社を設立し、その会社を通すことで、個人所得税率よりも低い法人税率の適用を受けるケースがある。また、クラブ側もあらゆる税務対策を駆使している。選手の移籍金を一括で支払うのではなく分割払いにすることで課税所得を平準化する手法が用いられている。
イギリスが2020年にEUから離脱(ブレグジット)したことで、EU内選手の獲得が厳しくなった。それまでEU内選手の獲得は比較的容易だったが、ブレグジット後は就労ビザの取得が必要となり、特に若手有望選手の獲得が難しくなった。
また、EU域内でのVAT還付の仕組みが変更されたことで、クラブの海外遠征や国際大会参加時のコストも増加。さらに、ポンド安の影響で海外選手の獲得コストが上昇し、クラブの財務に追加的な負担となっている。
これらの変化に対応するため、プレミアリーグのクラブは、国内若手の育成強化、南米やアフリカ、アジアなどEU外からの選手獲得、財務戦略の見直しと経費削減を行っている一方で、チケット代が高騰し、「もはやプレミアリーグのスタジアムに入れるのはお金持ちと観光客だけ」と揶揄されるまでになってしまった。
肥大化を続ける欧州サッカー界と税務当局のせめぎ合いは、今もってなお続いており、これからも続くだろう。

日本とブラジル間の租税条約
Jリーグでは、外国籍選手の出身地ナンバーワンは今も昔もブラジルだ。Jの助っ人の約6割がブラジル人選手といわれている。最も大きな理由は、日本とブラジル間の租税条約の内容にある。ブラジルのクラブから日本のクラブへ選手が移籍した場合、日本のクラブからブラジルのクラブへ移籍金の支払いが行なわれる。当然20%の税がかかると思われるが、日本とブラジルの租税条約ではサッカー選手の輸出入(移籍金)が免税措置の対象項目となっているのだ。
この条約は二重課税を防ぐためのもので、ブラジル人選手は軽減税率や一部免税措置の対象となる。そのため、租税条約の結ばれていない国でプレーするよりも日本でプレーする方がブラジル人選手にとってメリットは大きい。
仮に100万ドルの移籍金がかかった場合、一旦は約125万ドルを支払うのだが、税として上乗せされた約25万ドルは後に還付される。また、ブラジル人選手が受け取る(クラブが支払う)年俸も軽減税率の対象となり、Jクラブにとってもメリットがある。
租税条約が適用されるのは、ブラジルのほか1、2か国しかない。EU圏選手やアルゼンチン人選手、韓国人選手がJリーグに来てもこの免税の対象にはならない。
ブラジルにはプロサッカー選手が1万人以上いるとされ、年間に800人以上が海外に移籍しているという。ブラジルでは契約書があっても給与遅配など日常茶飯事。一方、日本ではそうしたことはほぼ皆無だ。さらに入金日が土日や祝祭日だった場合、その振り込みが前倒しされることにブラジル人選手は驚くという。
加えて、ブラジル人選手の所得税は自国内では基本27.5%だが、日本に来ることでその負担が軽くなる。治安の良さも相まって、日本からのオファーを待ち、移籍が叶えば家族揃って、日本での快適な生活を送ることを望むのは自然な成り行きだろう。
一時期は中国スーパーリーグのマネーゲームに押され気味だったJリーグだが、日本の住環境や日本人の信用度、ホスピタリティーの点を勘案し、日本を選ぶブラジル人選手も少なくないのだ。

オランダ、トルコの税金面の特徴
逆に、近年日本人選手が増えているオランダの所得税は36.5~52%の累進課税になっている。しかし外国からの労働者の受け入れを積極的に行っている関係で、サッカー選手についても一定期間、収入の30%部分を免税にする制度がある。いわゆる「30%ルーリング」という。このルールの適用には、過去2年間において、オランダ国境から150km以内で16か月以上就労していないことなどが条件だ。よって国境を接しているドイツやベルギーのチームにいた選手に対しては適用されないこともある。しかしこの「30%ルーリング」も縮小傾向にあり、先行きは不透明だ。
また、かつて日本代表DF長友佑都(ガラタサライ/2018-2020)や元日本代表MF香川真司(ベシクタシュ/2019)がプレーしたトルコ1部リーグのスュペル・リグ(現在は元U-23日本代表MF松木玖生がギョズテペSKでプレー)。
トルコの所得税率は15~35%と他の欧州諸国と比較すると若干低めだが、VATは18%と他のヨーロッパ諸国とほぼ同じだ。そもそもトルコはEU加盟国ではなく、国土の97%がアジアにあり、人口7,000万人の大半がイスラム教徒だが、サッカーではUEFA(欧州サッカー連盟)に加盟している。
トルコでプレーするサッカー選手の税金面で特徴的なのは、手取り保証契約が多い点だ。選手は手取り額が保証され、税金はクラブが立て替え払いし、手取り額から報酬総額を逆算する「グロスアップ方式」が採用されているケースが多い。
このように、サッカー界と税金は複雑に絡み合っている。脱税で検挙される選手が多いケースは、法律の立て付けと運用面での解釈の違いによるものがほとんどだ。金銭面を専門家に任せていても、こうした落とし穴にハマるケースもある。
それでもサッカー選手が高額納税者であることは変わりない。「お金」や「税金」という視点からサッカー界を覗くと、また違った光景が見られるかもしれない。
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