2022/23シーズンにスペインで5クラブ目となるレアル・ソシエダに加入して以来、確固たる地位を築き上げた日本代表MF久保建英。しかし今2024/25シーズンはクラブは中位に沈み、6年半に渡って指揮したイマノル・アルグアシル監督の退任も決まったことで、2028/29シーズンまで契約を残す久保の去就が注目されている。


ソシエダが設定した契約解除金(移籍金)は6,000万ユーロ(約96億円)で、これまで久保の移籍先候補として報道されたのは、スペイン3強(レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリード)をはじめ、リバプールやトッテナム・ホットスパー、バイエルン・ミュンヘンといったスペイン国外のビッグクラブも名を連ねている。

また、久保が移籍先クラブを決める際の決め手として「欧州カップ戦出場」という条件を立てているとすれば、ビジャレアル、ベティス、セルタ・デ・ビーゴ、オサスナといったクラブも候補に入ってくるだろう。

ここでは、久保の移籍先候補となっているクラブまとめ、右ウイングのレギュラーポジションを奪取できる可能性、クラブの戦術やスタイル、久保のプレースタイルとの適合性、キャリアのステップアップを考慮して分析し、久保にとって最適な選択肢を検証してみたい。

久保建英の移籍先候補まとめ。スペイン3強を避けるべき理由

リバプールなど国外のビッグクラブ

まず、リバプールはエジプト代表FWモハメド・サラーとの契約延長に合意した(4月11日発表)ため、久保獲得はまず消滅したと言っていいだろう。その前に、いくら移籍市場で人気銘柄となっているからといって、久保がスペインでのキャリアを捨て新たな国で再スタートを切るとは考えにくい。

スペイン語に加えて英語やフランス語も堪能な久保だが、“第2の母国”ともいえるスペインを離れる決断をすることは現実的ではないと考えられるからだ。よって、上述の通り久保に関心を寄せるとされるトッテナム、バイエルンも可能性は低いと思われる。

また、バイエルンの右サイドでは、加入即レギュラーとして活躍しているフランス代表MFミカエル・オリーズやドイツ代表MFセルジュ・ニャブリらとの競争が予想され、ステップアップとしては魅力的に映るが、ポジション争いの面では劣勢になる可能性がある。

久保建英の移籍先候補まとめ。スペイン3強を避けるべき理由

スペイン3強

バルセロナ

ではスペイン3強はどうか。ここに来て、バルセロナのスペイン代表DFエリック・ガルシアとのトレードが現地メディアで報道された。久保は「ラ・マシア」と呼ばれるバルセロナの下部組織出身で、この移籍が実現すれば実に10年ぶりの“帰還”となる。

しかし久保の定位置ともいえる右ウイングには17歳の怪童、スペイン代表FWラミン・ヤマルが君臨しており、久保が彼を押しのけてレギュラーを奪うのは困難だろう。さらにヤマルの控えには背番号10を背負うFWアンス・ファティらも控えており、いくらバルセロナとはいえ「控えの控え」という3番手の扱いを拒む可能性は高い。

しかもバルセロナは財政難に直面しており、久保の移籍金の支払いや、保有権を半分持つレアル・マドリードへ移籍金の50%を支払う条項も壁となるだろう。
ハンジ・フリック監督が久保を左ウイングやインサイドハーフで起用するプランを持っているとしても、今度はスペイン代表MFペドリやガビらとの熾烈な競争が待っている。

レアル・マドリード

レアル・マドリードは久保の保有権の半分を持っているため、移籍金が比較的安価(約3,000万ユーロ=約48億円)で済むメリットがある。しかしレアル・マドリードには、同じポジションにブラジル代表FWロドリゴがいる。ロドリゴにもチェルシーへの移籍話が浮上し、カルロ・アンチェロッティ監督の退任も濃厚とあってチャンスがないわけではないが、事態は流動的だ。第一、久保自身も昨年9月にレアルについて「いい思い出はない」と発言し、フロレンティーノ・ペレス会長を失望させている。

アトレティコ・マドリード

アトレティコ・マドリードでは、ディエゴ・シメオネ監督の三男であるMFジュリアーノ・シメオネが急成長し右サイドハーフのレギュラーポジションを奪取した。その上、前線にはラ・リーガの外国人最多出場記録を持つ元フランス代表FWアントワーヌ・グリーズマンもいる。グリーズマンには米MLSやサウジ移籍の噂があるが、仮に久保をレギュラーとして獲得するならば、グリーズマン放出は必須である上、シメオネ監督による愛息ジュリアーノの“えこひいき起用”も気になるところだ。

シメオネ監督の戦術は守備の強度とカウンター攻撃を重視するもので、久保のプレッシング能力、ドリブルでの打開力、戦術理解度は適しているようにも思える。さらに久保はソシエダでも守備面で貢献しているため、同監督の好みのタイプである可能性はある。ただし、シメオネ監督はアルゼンチン出身選手やフィジカル自慢の選手を好む傾向があるため、久保のスタイルが受け入れられるかは未知数だ。

久保建英の移籍先候補まとめ。スペイン3強を避けるべき理由

その他のスペイン4クラブ

ビジャレアル

久保が2020/21シーズンに期限付き移籍したビジャレアル。当時はウナイ・エメリ監督の戦術に合わず、MFジェレミ・ピノのブレークもありレギュラー確保に失敗した。キャリアで初めて欧州カップ戦(ヨーロッパリーグ/EL)にも出場し移籍後初得点も決めたが、ビジャレアルでの得点はその1ゴールだけで、リーグ戦では無得点に終わった。今年4月20日にソシエダの一員として古巣戦に臨んだ際(2-2)には、敵地エスタディオ・デ・ラ・セラミカの観衆から久保に向けブーイングが飛んだ。


現マルセリーノ・ガルシア・トラル監督の戦術は、【4-4-2】と【4-2-3-1】を併用し、サイド攻撃を重視している。久保のプレースタイルがマッチする可能性はあるが、ピノやコートジボワール代表FWニコラス・ペペ、スペイン代表MFアレックス・バエナとの厳しい競争が待っている。しかし、ELどころか欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場権を得られれば、ステップアップには適している。過去のトラウマやサポーターからの反発がなければ、再入団の可能性もあるだろう。

レアル・ベティス

そのビジャレアルに迫るのが、かつて元日本代表MF乾貴士(現清水エスパルス)が2018シーズンに加入したもののレギュラーになれず、たった半年でデポルティーボ・アラベスへの期限付き移籍を余儀なくされたクラブ、レアル・ベティスだ。

ベティスの右ウイングには、FWエセキエル・アビラ、FWアイトール・ルイバル、MFセルジ・アルティミラと多士済々な選手が揃い、トップ下には元スペイン代表MFイスコが君臨している。しかしながら、いずれも絶対的なレギュラーとは言い切れない。

そして、久保はテクニシャン好みの指揮官、マヌエル・ペジェグリーニ監督が好きそうなタイプで、監督に就任した2020年にも獲得に興味を示していたことからチャンスはありそうだ。仮に逆転でCL出場となれば2004/05シーズン以来とあって、高額移籍金を支払ってでも欲しいタレントだろう。攻撃的ながらも守備意識も高く、ハイプレス戦術にも対応可能であることで、久保の創造性が生きる環境が揃っていると言えるだろう。

セルタ・デ・ビーゴ

セルタ・デ・ビーゴの右ウイングにはMFイケル・ロサーダやMFアルフォンソ・ゴンサレスが起用されているが、いずれも確固たる地位を築けていない。久保の実績を考慮すれば、即レギュラーも可能だろう。

しかし、いくら欧州カップ戦に出場できると言っても、セルタはガリシアの地方クラブに過ぎない。ソシエダよりも明らかに格下であり、久保のキャリアにとって後退となるリスクもある。
出場機会を得られるという面で魅力的な選択肢だが、将来的なビッグクラブ移籍を目指すなら回り道となってしまいかねない。

オサスナ

ソシエダと同じ、バスク地方(州はバスク州の隣のナバーラ州)のパンプローナを本拠とするオサスナの右ウイングにはMFルーベン・ガルシアやMFジョン・モンカヨラが起用されているが、いずれも攻撃面での迫力には欠ける。そもそも、ビセンテ・モレノ監督は【5-4-1】のフォーメーションを用いる守備的な戦術で、そこに久保が加わったところで、果たして良さが生きるのかという疑問は残る。キャリアアップという観点からも外れるだろう。

レアル・ソシエダ残留の目も

以上の観点で4クラブを比較し、久保にとって最適な移籍先を評価すると、ベティス、ビジャレアル、セルタ、オサスナの順となる。ベティスであれば、右ウイングのスタメンを確保できる可能性が高い上、クラブの“格”の面でもソシエダと遜色ない。

なおかつ、久保のプレースタイルが、ベティコと呼ばれる情熱的なサポーターに歓迎されることは請け合いで、本拠地のエスタディオ・ベニート・ビジャマリンを熱狂させることだろう。クラブは日本市場を開拓しようと3月にクラブ幹部が来日し、東京ヴェルディのクラブハウス視察や、ファンとの交流イベント「ベティス・ウィーク」を開催した。その延長線上で久保獲得に動く可能性もあるのではないか。

スペインにおいて、バルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリードの3強以外のクラブは「オトラ・リーガ(別のリーグ)」と呼ばれるほど、その格差は大きい。スペインでプレーする以上、3強を目指すのは当然だが、その結果がベンチウォーマーでは意味が無い。日本のファンも、久保がビッグクラブのベンチに座る姿よりも、レギュラーとして存在感を発揮している姿が見たいはずだ。

さらに言えば、ソシエダは来2025/26シーズンの新監督に今季Bチームを率いていたセルヒオ・フランシスコ氏の内部昇格を発表した(4月26日)。
事実上の“アルグアシル監督路線の継承”を選択したとあって、久保にとっては急転直下の「ソシエダ残留」の目も出てきたと言えるだろう。
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