5月31日と6月1日にかけては、サッカーファンにとって贅沢な週末だった。大阪が誇る3つのJクラブ、ガンバ大阪、セレッソ大阪、FC大阪(J3)のホームゲームを巡る「サッカーハシゴ観戦」の旅に出た。


それぞれが異なる歴史、文化、そして魅力を持つクラブたちだ。2日間で体験した大阪の熱気、スタジアムの個性、そしてサポーターたちの思いを、紀行文風にレビューする。

今や一大サッカータウン!FC大阪・ガンバ・セレッソ「ハシゴ観戦記」

FC大阪:東大阪市に根ざし、温かいサポーターとともに成長中

5月31日:対鹿児島ユナイテッド(東大阪市花園ラグビー場/3-0)

5月31日14時キックオフの試合。会場はJ3首位を快走するFC大阪のホーム、東大阪市花園ラグビー場だ。言わずと知れたラグビーの聖地が、サッカーの舞台にもなっている。近鉄奈良線の東花園駅からスタジアムまでは徒歩約10分。難波からでも30分程度とアクセスは非常に良好だ。道中はラグビーのモニュメントが点在し、街全体がスポーツを愛している雰囲気に包まれている。

花園ラグビー場は、その歴史を感じさせつつも非常にキレイで見やすいスタジアムだった。メインスタンドからピッチ全体を見渡せる視野の広さは特筆すべきで、サッカー観戦にも全く問題ない。クラブはこのスタジアム使用を巡って、FC大阪・東大阪市・Jリーグの間で意見の食い違いをきっかけにした問題を抱えているが、試合を見る分には「ここのどこに問題があるのか」と思えるほど快適な観戦環境だ。

この日の対戦相手は、5位につける鹿児島ユナイテッド。J3の上位対決とあって、鹿児島サポーターの来場者も目立ち、観客数は5,163人。
J3としては立派な数字だと言えるだろう。両チームのサポーターは熱気十分だった。

特に印象的だったのは、FC大阪サポーターの雰囲気だ。非常に温かく、アットホームな空気が流れている。試合前、スタジアム周辺で話を聞いたある東大阪市在住の男性サポーターはこう語ってくれた。

「ガンバさんやセレッソさんのことは、もちろんリスペクトしています。でも、ライバルだなんておこがましい。向こうもそんな意識はないでしょう。FC大阪はこの東大阪市を中心に、地域の方々に応援してもらいながら、地道に一歩一歩進んでいくだけですよ」

その言葉には、等身大のクラブであろうとする謙虚さと、地元への深い愛情が感じられた。両J1クラブのような派手さはないかもしれないが、地域と共に歩むという確固たる意志が、FC大阪の最大の魅力なのだろう。試合は意外なほどにFC大阪が一方的な勝利を収め単独首位の座を守ったが、勝敗以上に、この温かいコミュニティーに触れられたことが大きな収穫だった。

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ガンバ大阪:西日本随一のビッグクラブ、熱狂とスタジアムアクセスの狭間で

5月31日:対鹿島アントラーズ(パナソニックスタジアム吹田/0-1)

FC大阪の試合の余韻に浸る暇もなく、その足で次の目的地、パナソニックスタジアム吹田へと向かう。大阪府の端から端へ“中2時間”での移動に不安はあったが、関西ナンバーワンの人気を誇るガンバ大阪がJ1首位の鹿島アントラーズを迎えるビッグマッチだ。
まさに「ハシゴ観戦」の醍醐味である。

しかし、ここで大きな壁に直面する。スタジアムアクセスだ。FC大阪のホームの花園ラグビー場へは非常にスムーズに到着できたのとは対照的に、パナソニックスタジアム吹田への道のりが壁となる。最寄りの万博記念公園駅からは徒歩で20分以上(公式サイトでは15分とある)かかり、JR茨木駅からシャトルバスの運行もあるものの、試合前後は長蛇の列とのこと。万博記念公園駅からの徒歩ルートは階段の連続で、まるでハイキングコースだ。以前の万博記念競技場が公園東口駅の目の前にあったこともあるが、正直このアクセスは大きなマイナスポイントと言わざるを得ない。

試合開始ギリギリにたどり着いたが、さすが「ビッグクラブ」と思わせる壮大で近代的なスタジアムだ。全席屋根付きで、どの席からもピッチが非常に見やすい設計になっている。そして何よりも、スタジアムを埋め尽くすG大阪サポーターの熱狂度は圧巻の一言。ゴール裏から地響きのように響き渡るチャントの一体感は鳥肌もので、オリジナル10のプライドを感じさせた。

32,013人もの観客を集めたこの日の鹿島戦は、前半9分に挙げた鹿島FWレオ・セアラの得点の後は、G大阪がサポーターの声援をバックに圧倒的に攻め、21本ものシュートを放ったが1点が遠かった。
しかし、スタジアム全体が勝利への渇望で満ち溢れており、その迫力は凄まじかった。

試合の見やすさ、サポーターの熱量、スタジアムの設備、どれをとっても西日本随一であることは間違いない。ただ、やはりアクセスの悪さが水を差している感が否めない。これだけの魅力を持つスタジアムだからこそ、多くの人が快適に足を運べるような改善を期待したいところだ。帰り道は「またあの道のりを歩くのか…」と気が重かったが、阪急山田駅へのシャトルバスが出ており、迷うことなく飛び乗った。

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セレッソ大阪:後発だからこその新規ファン掘り起こしが奏功、スマートな魅力と温かい声援

6月1日:対清水エスパルス(ヨドコウ桜スタジアム/4-2)

翌日、大阪のもう1つのJ1クラブ、セレッソ大阪のホーム、ヨドコウ桜スタジアムへ向かった。対戦相手は清水エスパルス。前日のガンバ大阪とはまた異なる魅力を持つクラブの試合に期待が膨らむ。

ヨドコウ桜スタジアムは長居公園内に位置し、JR阪和線鶴ケ丘駅からは徒歩数分、大阪メトロ御堂筋線長居駅からもアクセスしやすい。パナソニックスタジアム吹田への道のりを考えると、このアクセスの良さは本当にありがたい。

スタジアムの規模はパナスタに比べるとコンパクトだが、特筆すべきはその臨場感だ。サッカー専用スタジアムならではのピッチとの近さ、そしてどの席からも死角なく試合を堪能できる設計は素晴らしい。選手たちの息遣いまで聞こえてきそうな距離感は、サッカー観戦の醍醐味を存分に味わわせてくれる。


C大阪のサポーターの雰囲気は、G大阪とはまた違った趣があった。まず感じたのは、女性サポーターの多さだ。華やかなユニフォーム姿の女性たちが、熱心に声援を送る姿が目立つ。応援のスタイルも、G大阪のような圧倒的な声量と威圧感というよりは、チームを温かく見守り一体となって後押しするような、どこか優しさを感じるものだった。ギスギスした雰囲気は全くなく、スタジアム全体が“楽しもう”というポジティブな空気に満ちている。

興味深かったのは、C大阪サポーターにG大阪の印象を尋ねた際の反応だ。「ガンバのサポーターは少しガラが悪いというか…」「ちょっと怖いイメージがありますね」といった声が少なからず聞かれた。これは、両クラブが歩んできた歴史的なライバル関係や、応援スタイルの違いからくるものだろう。どちらが良い悪いという話ではなく、それぞれのクラブが持つ独自のカラーが、サポーターの気質にも反映されているのだと感じた。

ヨドコウ桜スタジアムは、試合の見やすさ、アクセスの良さ、そして温かくも熱いサポーターの応援が融合した、非常に魅力的な空間だった。それは、昨年までC大阪に在籍していた清水MFカピシャーバが紹介された際に拍手で応えた一方、2022年6月、当時の小菊昭雄監督(現サガン鳥栖監督)とのイザコサをきっかけとした規律違反により退団に至った清水MF乾貴士に対しては、愛と皮肉を込めたブーイングで迎えたことからも分かる。

C大阪は、この試合を最後にオーストリア1部RBザルツブルクへ完全移籍するMF北野颯太を気持ち良く送り出そうと奮起。
20,864人もの観客を飲み込み、北野のPK失敗、VARによる2度のゴール取り消しがありながらも清水を圧倒し、試合後は“フィエスタ”と化した。

今や一大サッカータウン!FC大阪・ガンバ・セレッソ「ハシゴ観戦記」

結論:三者三様の輝き、大阪サッカー界の奥深さを知る旅

わずか2日間で巡った大阪の3つのJリーグクラブ。FC大阪の地域密着の温かさ、G大阪のビッグクラブならではの熱狂、そしてC大阪のスマートなスタジアムとサポーターの一体感。それぞれが全く異なる個性と魅力を放っており、大阪のサッカー文化の奥深さを改めて感じさせられた。

加えて、「大阪人は阪神タイガースにしか関心がない」と刷り込まれたイメージが、民放テレビ局などのオールドメディアによって拡散された間違った偏見だったことにも気付かされた。

FC大阪が見せる「身の丈に合った地道な歩み」は、Jリーグが目指すべき地域貢献の一つの理想形かもしれない。G大阪の圧倒的なスケールと熱量は、Jリーグを牽引する存在としての矜持を感じさせる。そしてC大阪は、アクセスの良さと専用スタジアムの魅力で、“セレ女”と呼ばれる女性ファンなど新たな客層を着実に開拓している。

どのクラブも、それぞれのやり方で地元に愛され、サッカーというスポーツを通じて人々に夢や感動を与えている。大阪という街がこれほど多様なサッカー文化を育んでいることに改めて驚きを感じた。もはや世界有数のサッカータウンと言えるだろう。この素晴らしい体験によって、また新たなスタジアムへと足を運びたくなる。
そんな思いを強くした2日間だった。

もう1つ付け加えるとすれば、少し足を伸ばせば東には京都サンガがあり、西にはヴィッセル神戸がある。この2クラブもサッカー専用スタジアムをホームとおり、アクセス面も申し分ない。あまりにも観戦環境に恵まれすぎて、子ども時代から“専スタ慣れ”している関西の人々は、仮に上京してJリーグを見ようとするならば、陸上トラック付きや老朽化したスタジアムの多さに愕然とするのではないかと余計な心配をしてしまうほどだ。

偶然に日程が重なったことで実現したハシゴ観戦。首都圏同様、他の数多くの娯楽とも闘わなければならない中にあって、集客面でも大健闘していることが理解でき、さらに伸びしろも感じさせる、実り多い旅となった。
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