2018年を代表する映画『ボヘミアン・ラプソディ』。劇中でフレディ・マーキュリーを演じるラミ・マレックが履いていたのはオニツカタイガーのレスリングシューズだった。
今回俎上に載せた「モンスターピース」は、ハリウッドに愛されたブランドが2020年にリリースした話題沸騰のシリーズだ。
モンスターピースには文字どおりモンスター級のモデルがラインナップされる。このたび新色がリリースされる「アルティメイト 81 MP」と「レビラック ランナー MP」を通して、その凄みを検証したい。
新たに加わった「アルティメイト 81 MP」(上)、「レビラック ランナー MP」(下)。ともにペールベージュ/リーフベージュ、ブラック/ブラック、メトロポリス/キャリアーグレーの3色。いずれもシックの極みといっていいカラーパレットで、どんなスタイルにも溶け込む。7月9日(金)発売予定。各2万2000円/オニツカタイガー(オニツカタイガージャパン 0120-504-630)「アルティメイト 81 MP」は1981年に登場したジョギングシューズのハイエンドライン、アルティメイトをベースにしたモデルだ。ラバーで覆われたトウやプラスチック製のヒールプロテクターが、どこかいなたい体躯の魅力を引き立てている。
「レビラック ランナー MP」は1980年に登場し、カルト的人気を誇ったランニングシューズ「エクスカリバー」をベースにしたモデル。メリハリのあるシルエットと異素材のコンビネーションはモダンのひと言だ。
いずれもオリジンのアイデンティティを受け継ぎつつ、現代のテクノロジーでブラッシュアップ。クッション性と反発性を兼ね備えたフライトフォームプロペルのミッドソールや、クッション性に優れたオーソライト中敷といったスペックは象徴的である。
それぞれ単体でみれば、ヘリテージの成り立ちを踏まえて慎重にスペックを選定しているのがわかる。
「アルティメイト 81 MP」にはフライトフォームとの二層構造とすることで軽量性を高めたミッドソールや通気性を確保するエアホールが、「レビラック ランナー MP」にはグリップ力に富んだ千鳥格子状のトレッドパターンを描くラバーソール、屈曲とクッショニングを両立させるクッシュホール、着地時にかかとが内側に倒れ込むのを防ぐデュオマックスが搭載される。
1980年に登場し、カルト的人気を誇ったランニングシューズ「エクスカリバー」。「レビラック ランナー MP」のベースとなったモデルだ。
モダンな佇まいからは想像もできないてんこ盛りのスペックはすべて自社で開発されたものだ。1985年に設立したスポーツ工学研究所がその拠点である。
「オニツカタイガーはソールひとつとってもそれこそ無尽蔵といっていい規模でアーカイブされており、彼らはそれを誇りとしています」(業界関係者)。
街で履くには過剰なスペックは、オニツカタイガーの気概をあらわしている。
オニツカタイガーストライプに頼らないデザインワーク
クラシックに範をとりつつ、今の時代にフィットするボリューミーなフォルム、面取りして光沢にコントラストをつけたプラスチックパーツ、そして要所を飾るとろけるようなスエード……仔細に観察してもデザインに破綻はない。一切が内製されていると聞いて驚いた。
「デザインチームは、現在のテクノロジーが先人の時代に存在していたらどんなモデルを作っただろうと妄想してデザインに落とし込んでいます。
その自信が端的に表れているのがオニツカタイガーストライプをあえて排するデザインワークだ。オニツカタイガーはヘリテージへオマージュを捧げつつ、しかしヘリテージに頼らない、新たなブランド像を打ち立てようとしているのである。付け加えるならば、サスティナビリティなスタンスも好感が持てる。好例は展開モデル数。モンスターピースには現時点で3型しか存在しない。それはひとえに妥協することなく作り込み、そしてリリースした以上はブランドの顔として育てていきたい、という思いで臨んでいるからである。
映画『キル・ビル』が起爆剤に
黎明期を牽引したオニツカタイガーに再び命が吹き込まれたのは2002年。「メキシコ 66」や「アルティメイト 81」「ニッポン 60」といったヘリテージをベースにしたモデルをラインナップし、呱呱の声をあげた。
この時機を得たタイミングには言葉もなかったけれど、翌’03年、映画『キル・ビル』で主演のユマ・サーマンが履いてたちまちブレイクした。
「転機は2001年にまで遡れます。彼らはグローバルブランドとして戦っていくために、彼らの強みであるランニング事業とスポーツスタイル事業に経営資源を集中することを宣言しました。そこにやってきたのがレトロスポーツのブームでした。彼らは一気呵成に店舗展開、プロダクトプレースメント、ダブルネームを推し進め、オニツカタイガーの世界観をくっきりと浮かび上がらせることに成功しました」(業界関係者)。
その後の快進撃はご存じのとおり。東京を皮切りに、パリ、ロンドン、ベルリン、アムステルダムへと店舗網を広げた。瞬く間に土台を築いたオニツカタイガーは今年、再び動き出した。3月にロサンゼルスのロデオドライブ、5月にロンドンのリージェントストリートにフラッグシップストアをオープン、これにより海外出店数は140店に。
オニツカタイガーは返す刀でトータルブランドへと舵を切った。名だたるメゾンでキャリアを積んだアンドレア・ポンピリオをクリエイティブディレクターに迎え、さる2月にミラノコレクションでデビュー。
オニツカタイガーに日本が誇るシューメーカーをバックボーンとするアドバンテージがあったのは確かだ。しかし、長者に二代なしの故事があるように、そのありがたみを理解することなくうつつを抜かしていれば屋号というものはたやすく色褪せる。鬼塚喜八郎も草葉の陰で喜んでいることだろう。
竹川 圭=取材・文



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