3. 2025年3月期の業績見通し
2025年3月期の業績についてJストリーム<4308>は、売上高11,720百万円(前期比4.0%増)、営業利益698百万円(同23.2%増)、経常利益709百万円(同21.3%増)、親会社株主に帰属する当期純利益365百万円(同22.5%増)を見込んでいる。より一層スピードを増して顧客ニーズに対応するとともに需要の拡大に応えるため、案件対応能力や開発能力など企業体制を充実させる方針である。
ところが第2四半期は、単体業績が前提を超える勢いで順調に推移したところに、ビッグエムズワイとイノコスの好調が加わり、通期業績予想に対する営業利益の進捗率は59.0%(前年同期比2.0ポイント向上)となった。同社は業績修正の公表タイミングを東証の30%ルール※に従っている。また、特にイノコスの大型案件を一時的収益とみなしているため、業績予想を上方修正しなかったが、大きなマイナス要因もないことから、少なくとも期末の着地段階で上方修正される可能性が高まったと言えよう。
※ 30%ルール:東京証券取引所のルールで、公表された業績予想から売上高で10%以上、営業利益、経常利益、当期純利益で30%以上の増減があった場合、企業は開示する必要があること。
コロナ禍以降、DXによる産業構造の変化は著しいものがある。新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴いリアル回帰が進行したが、企業はコロナ禍でのWeb関連施策によって得られた知見を活かし、リアルとオンラインのハイブリッドな事業展開が一般的になると考えられている。第2四半期は実際にそうした事業環境となったことから、同社は下期に向けても期初の戦略を継続する方針で、DXの目的達成に最適化されたソリューションや、リアルと合わせたユーザー体験の高レベル化、セキュリティの強化を推進し、業容を拡大する考えである。
市場別戦略としては、医薬領域でデジタルマーケティングを中心としたサービスの提供、EVC領域ではビジネス全般における動画ソリューションの開発・提供、OTT領域では拡大が見込まれるネットコンテンツ配信サービスへの関与を強める方針である。具体的には、医薬領域では、2024年4月に発足したDET(製薬企業向けデータ活用支援チーム)という専門組織によって、Web講演会の主要顧客の薬剤ごとの営業やデジタルマーケティングの提案を強化する方針である。
EVC領域では、教育・トレーニングや社内情報共有は引き続き堅調である。イベント・セミナーは企業活動のリアル回帰が進んだ一方でユーザーのオンラインニーズが引き続き強く、今後ハイブリッド化が進む可能性が高いと考えられる。また、コロナ禍を背景に動画などのリソースが蓄積されたが、それらを適切に管理・共有して活用ができる企業は少ないようで、セキュアな情報共有の場を手軽に構築できるEQポータルは有効だと考えられる。このため同社は、EQポータルを軸に、2024年4月に立ち上げたプロダクト専任チームと代理販売店チームを使い分けて販売促進活動を強化し、大口顧客の育成を進める方針である。このうちプロダクト専任チームは、EQポータルを使った動画の利用用途別の施策を実施、代理販売店チームは、パートナーの種別やレベルに応じた支援施策で活動を促進する一方、パッケージ化されたサービスを中心にパートナーを通じた販売ルートの拡大を図る。
OTT領域では、DXの加速やネットコンテンツ視聴の活性化を受け、単に動画配信を支援するだけでなく、マネタイズニーズへの対応など、動画ビジネスにおけるトータルテックパートナーを目指す。大規模配信やサイト運用などを総合的に担当するキー局などに対しては、マルチCDNなどを利用した配信品質の向上や、安定したサイト運用体制の提供を行い、既存顧客の維持と新規顧客へのサービス導入を図る。大型イベントについては、信頼性や世界的な大型スポーツイベントでの実績をアピールして関連案件の獲得を進める。BS/CS局やスポーツ、各種公営競技などのコンテンツ事業者に対しては、マルチアングル配信などの映像機能に加え、コンテンツ配信用のCMSや課金機能、キャンペーン展開ツールなど、海外SaaSを利用した動画配信とも組み合わせて利用できる各種の機能・ソリューションを提供し、顧客獲得につなげる。商品に封入されたシリアルコードを使って動画の限定配信を行うマストバイソリューション、動画ファイルのアップロードとメタ情報の登録が一度にできるメタマスタ管理ソリューション、KDDIとの協業深化によるデータセンター接続容量拡大などサービス基盤の整備も図る。コンテンツ配信・OTTサービスの展開に必要とされる基本機能を持ち、顧客のニーズに合わせて機能を自由にカスタマイズして組み合わせることができる、コンテンツ事業者向けCMS「Stream BIZ」の提供を開始した。
なお、同社はM&Aや出資をほぼ毎年1件のペースで積極的に実施している。M&Aによる2024年3月期の増収効果としては、ビッグエムズワイ、イノコス、VideoStepの3社で2,213百万円、連結売上高の20%を占めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)