レビュー

本書は、20世紀の経済学史そのものと呼べる、宇沢弘文という経済学者の伝記である。2019年度の「城山三郎賞」、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞をW受賞した。

資本主義の限界や課題が叫ばれるいま、出るべくして出た本といえるだろう。
宇沢弘文氏(1928~2014 以下、宇沢)は、ノーベル経済学賞に最も近いといわれながら、アメリカにおけるキャリアの絶頂時に突如、日本へ帰国する。その後は公害や地球温暖化といった社会問題に、持ち前の数理経済学を武器に立ち向かっていく。
宇沢は「社会的共通資本」を提示した。この資本は、個々の経済主体によって私的な観点から管理、運営されるものではなく、社会全体に共通の資産として、社会的に管理、運営されるべきものを意味する。これは、全てのものは市場化されると考える主流派の「市場原理主義」とは相容れないものであり、宇沢の活動はおのずと主流派経済学との闘いの様相を呈した。それがまさにタイトルの「闘った男」の意味である。しかし、1980年代のレーガノミックス以来、市場原理主義の日本社会への浸透はすさまじく、宇沢は苦戦を強いられていく。いまや教育や医療にまで市場原理主義が進出している。
そんななかSDGsへの注目は高まる一方だ。SDGsが掲げる持続可能性と誰一人として取り残さないとする理念が、社会的共通資本の理論と響き合うのではないか。また、本書への高い支持が、この理論が資本主義のオルタナティブとして再浮上してきたことの証明といえよう。
人間としての経済学を打ち立てようとした宇沢の思想が、より広く社会に共有されることを願ってやまない。

本書の要点

・宇沢弘文は若くして「数理経済学」の分野において、世界で最も注目される研究者となった。
・シカゴ大学で教授を務め、日本に帰国した後は、市場原理主義に対抗する理論として「社会的共通資本」を提唱した。これらの資本は、市場原理とは別の手法で管理、運営されなければならない。その手法がこれらの資本を公共の財産として自主的に管理する「コモンズ」というスタイルだ。
・宇沢の考える経済学とは、「人間の心を大事にすること」である。



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