レビュー

本書は『21世紀の資本』で知られる著者が、経済学の観点から「不平等」というテーマを概説したものである。1997年に初版が刊行されて以来、全体の構成と参照された情報、資料は基本的に変わっていないが、論点は古びていない。


格差とその是正に関する議論は、自由市場の機能に任せるか、それとも政府が市場に介入するかといった対立軸と同時に、効用の上昇や経済効果を基準にするか、それとも公正さを基準にするかといった論点を通して争われてきた。社会全体の経済効果を最大化するための最適な資源の再配分は、必ずしも各人にとって公正なものであるとは限らない。たとえば、ある人に多大な負担を強いることが社会全体の利益となるとしても、その負担が過度であれば、負担を被る当人にとっての公正さは損なわれているからだ。しかし本書では、その公正な再分配と、社会全体の経済的な利益につながる効率的な再分配とは両立すると説く。そして、労働者の賃金を上げる直接的再分配よりも、累進課税や社会保障を通して政策的に行われる財政的再分配の方がより効率的であるとの主張が特徴的である。
不平等や格差の是正は、倫理的な観点から主張されることも多いが、残念ながらそれだけで社会を変えるのは難しい。倫理的なだけでなく、効率的でもある論点であれば、不平等や格差の是正に対する社会的なコンセンサスをより形成しやすくなるだろう。不安定さが増す時代を迎え、今後ますます、本書で提示されているような視点の重要度が高まるのではないだろうか。

本書の要点

・資本の量やその所有の有無から生じる資本と労働の不平等は、世代間で再生産されてしまうため、解消する必要がある。
・再分配には、企業が労働者に支払う賃金を上げるような直接的再分配と、徴税と社会政策を通じた財政的再分配がある。
・生まれ育ちの環境が要因となる不平等に介入するため、教育の機会だけでなくクラスの「質」といった環境の格差も是正しなければならない。
・低賃金労働者は収入の多くを社会保険料で徴収されており、実質的に再分配のための大きな負担がかかっているため、これを軽減させなければならない。



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