レビュー

「はじめに言葉あらず――そのことだけは確かだ」。
人間の意識について考えるとき、言葉がセットで扱われることが多い。

「意識とは、すなわち言葉である」という捉え方もする人もいるほどである。だとすると、言葉のない生物には意識が存在しないのだろうか?
本書を執筆したアントニオ・ダマシオ教授は、意識が生まれるにいたった過程を、生命の起源を紐解きながら考察する。意識にまつわる言葉は目に見えないからこそ、混乱が生まれがちだ。だからこそダマシオ教授は、あの手この手を使って丁寧に、「意識」がどういうものなのかを描写する。
その考えの中心にあるのは、「意識は生存に役立つから生まれ、生き残ったメカニズムである」という、ある種のプログマティズム的な視点である。だからこそ彼は、意識にまつわる神秘性を否定し、必要以上に複雑に扱うことを咎める。その一方で、安易な単純化にも与しない。ここにダマシオ教授の知的体力の高さが垣間見られる。目に見えないものを言葉で扱うときの態度として、これ以上ないほど誠実なのだ。
本書はエッセイ集の体裁をとっており、一気通貫に取り組むというよりも、空いた時間でいくつかの章を読み進め、その内容に思いを馳せるという読み方のほうが、より理解が進むだろう。本書にふれることで、「意識とはなにか」についての視座を獲得するとともに、ダマシオ教授の思考パターンを見出してみてほしい。

本書の要点

・知性には非明示的なものと明示的なものがある。

非明示的な知性は「感知」であり、生命の維持に役立つ反応という意味で、間違いなく知的な反応のひとつといえる。
・感知をもとにして生まれたのが心だ。心は神経系を構成要素とし、表象やイメージの構築につながり、感情や意識につながっていく。
・感情が存在するのは、私たちの体内と神経系が直接アクセスしあえるからだ。感情は体内の状態を伝えており、そこに言葉はかならずしも必要ではない。
・感情があり、その主体が特定されるとき、心に意識が宿る。



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