レビュー
世界史の教科書では必ず取り上げられるので、本書と著者の名前はよく知られているが、実際に通読したことがある人は多くないだろう。本書は、絶対王政を擁護したと説明されることも多いが、一方で、近代のリベラリズムの源流として位置づけられる書物でもある。
著者にとって、国家とは個人の生命の安全を守るためのものであり、その目的を果たすために必要なのは、単一の主権への臣従である。君主制か合議制かといった統治形態の違いは必ずしも問題とはならない。本書が書かれた17世紀のイングランドでは、国王が処刑された清教徒革命を中心とした内戦による混乱が長期間続いていた。著者が抱いていたのは、そのような政治的混乱をなくすためにはどうすれば良いのかと考え抜く、冷静かつ情熱的な想いだ。
同時に、他者を侵害してでも自分が生き延びることが認められるという、そもそもの「自由」を放棄してでも契約が結ばれるのは、それが個人にとって合理的な選択となるからだとする、経済学やゲーム理論にも通じる先進的な発想も芽生えている。
論述に用いる言葉や概念を一つひとつ丁寧に定義しながら、演繹的に議論を進めていくスタイルは論理的だ。文化的背景が異なる現代に読んでも明晰に理解できる。政治に関する様々な思想の基礎となった本書は、国家や権力の本質を考える上で必読の書物だ。
本書の要点
・人間の力は平等だからこそ、ものを奪い合い、自分が生き延びるために争いが生じる。共通の権力がない段階では、人間は自分の安全を自力で守るためには何をしても不正にはならないため、各人の各人に対する戦争状態が生じる。
・合理的に考えれば、危険な戦争状態よりも平和な状態のほうが確実に安全を保障できるため、各人は権利を譲渡して共通の権力に委ねるという信約を結ぶ。
・共通の権力は、人であれ合議体であれ、一つの人格から構成される。人々は、主権を行使する一つの人格に臣従することで、戦争状態を脱し、平和を得る。
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