レビュー

日本の所得中間層について、内閣府のデータでは、1994年に505万円だった世帯所得が2019年には374万円に激減している。また、GDPではOECD加盟国38カ国中20位と急降下した。

日本の世界での存在感が小さくなっていることは日本にいるとどこか実感しにくいが、このように数字で突きつけられるとまざまざと思い知らされる。
本書を記したNHKスペシャル取材班はさまざまな社会問題について深く取材し、NHKスペシャルやクローズアップ現代などの社会派ドキュメンタリーにまとめている。その取材陣が、日本の“中流危機”の深刻な問題とその解決策を示唆しているのがこの本だ。
“中流危機”というと難しそうなテーマだが、最初は“中流”(だと思われていた)層の人々のドキュメンタリーから入るため、ぐっと引き込まれて一気に読み進めることができる。さらに本書では、第二部の「中流再生のための処方箋」で解決策を提示しようとしていることが意義深い。日本の深刻な社会問題を浮き彫りにして終わりではなく、NHKスペシャル取材班がデータと取材に根ざした展望を描こうとしている。デジタルイノベーション、リスキリング、同一労働同一賃金と、現在のホットトピックばかりだ。
政治家・経営者・正社員・非正規労働者・学生といったどのような属性の人であっても、本書はすべての日本人が自分ごととして捉えるべき内容で満ちている。

本書の要点

・この25年で「一億総中流」と言われた日本社会の中間層の所得が落ち込み、正社員であっても貧しさの危機に直面している。
・正社員の終身雇用、年功賃金、能力開発・育成、福利厚生を企業が約束し、入社から定年退職まで一定の生活を保障する「企業依存型」の雇用システムは、限界を迎えている。
・日本が負のスパイラルから脱却し、中間層の所得を上げるためには、人材育成への投資が鍵である。①デジタルイノベーション、②リスキリング、③同一労働同一賃金という施策が考えられる。



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