レビュー

スポーツは勝敗だけでなく、プレーにも大きな関心が集まる。世界の一流選手の集まる試合であればなおさらだ。


勝敗がかかる場面において、サッカーや野球、ゴルフなどで多くの選手が安全策をとることが知られている。「試合に勝つ」には、攻撃的なプレーをしたほうが勝つ確率が高いことが知られている。にもかかわらず、なぜ選手たちは安全策に走ってしまうのだろうか。
そこには、リスクを取ったせいで失敗することを避けたい心理が働いている。また、大観衆の前で恥をかきたくないという思いや、勝敗の責任を負いたくない感情も複雑に入り混じる。このような傾向を、行動経済学では「損失回避バイアス」と呼ぶ。
スポーツではこのほかにも、さまざまなバイアスがみられる。野球ではビハインドを負っているとき、盗塁のようにリスクが高い戦術を選択することが多い。これは、不利な状況にあることに焦点をあてる「ネガティブフレーム」というバイアスのためだと考えられる。
一方で、バイアスをうまく活用している例もある。たとえば、フルマラソンを4時間以内で走り切る「サブ4」は、ランナーたちの憧れである。実際にデータを見ると、4時間の直前と直後でゴールした人数が大きく変わっている。
ここには「概数効果」という認知バイアスが関係している。
ビジネスや行政でも活用される行動経済学だが、スポーツの事例は非常にわかりやすい。本書は楽しみながら行動経済学の概要を学べる、格好の一冊である。

本書の要点

・サッカーのPK戦では、ゴール上段のほうが下段よりも成功率が高いのに、多くの選手は下段を狙う。キッカーには、失敗(損)を避けたいという「損失回避バイアス」が働いている。
・野球では、負けているときほど無理な盗塁をしてしまう傾向がある。このとき、状況をネガティブに捉えてしまう「ネガティブフレーム」が影響している。
・「コストをかけたから使わないともったいない」という「サンクコスト」が働いた結果、スター選手揃いのレアル・マドリーは、3年間で1回もタイトルを取れなかった。



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