レビュー
この世界のほとんどの人が、日常的に服を着て暮らしている。服といえば、衣食住に数えられるほど生活に必須のものだとみなされている。
しかし、その服がいつから存在し、どのような歴史の上に成り立っているのかと答えられる人は、ほとんどいない。私たちは自分たちが毎日着ているものについて、驚くほど無知ではないだろうか。
本書は東京大学にて行われた講義をまとめたものである。それも一般教養を学ぶ駒場キャンパスではなく、専門学部が置かれる本郷キャンパスの文学部にて行われた、一度きりの集中講義だ。我々が身につけている服が、果たしてどのような流れを経て今に至るのか、専門的なファッション論への入門として、親切さと奥深さを両立した講義録となっている。
ファッションという言葉は軽薄な印象と共に語られがちであり、学問として認められなかった時代が長かった分野でもある。一方で、ファッションは我々の身体と密接なかかわりを持ちながら、世界中を巻き込んだ一大産業として成立してもいる。本書を通じて、ファッションがどこから“着て”そしてどこへ行くのか、自分の着ている衣服の過去と未来に思いを馳せてみてほしい。
本書の要点
・西洋の衣服は、身体に合わせて布を裁断し、縫い合わせることが特徴的である。身体をすっぽりと覆いたいという欲望には、母親から分離された胎児としての不安が関係している。
・服は長く仕立屋による一点ものであったが、見本を先に見せてからその通りに仕立てるオートクチュールを経て、プレタポルテと呼ばれる既製服が発展することで、ファッションデザイナーの地位は確立されていった。
・衣服は常に身体にまとわれるものであるがゆえに、身体をテーマにしたアートとも密接なかかわりを持ってきた。身体をイメージ化、実体化するものこそがファッションである。
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