レビュー
分業が進めば、労働の生産性が上がって効率化されていき、社会の発達を促す。このことに首を傾げる人はいないだろう。
分業について、19世紀末に書かれた本書が、今でも重要な古典の一つとして読み継がれているのは、このような一般的なイメージを鮮やかに転覆させるからだ。分業が原因となって社会の発達をもたらすというよりも、社会環境の変化が人々の繋がりの形を変えて、分業を促進させる。そして、分業は人々をバラバラに分解するのではなく、むしろ社会に有機的な連帯をもたらす。本書の主張は一見すると意外な考えであるが、膨大な事例に基づいてじっくりと論じられるその思考に触れれば、大いに納得させられるだろう。
本書より前の時代では、労働と生産性という観点から、分業は経済学の分野で論じられることがほとんどだった。しかし、個人が合理的に利益を追求して行動すると想定するタイプの経済学だけでは、分業の社会的で道徳的な意義までは見えてこない。社会を、単なる個人の行動の結果の集計ではなく、それ自体で実在するものとして取り扱う、著者の独自の社会学の方法によって導き出される。
現代を生きる私たちも、本書を通して自分の働き方と社会との関わり方について、考えを深めることができるだろう。
本書の要点
・分業は個人がそれぞれの利益を増やそうとして進むのではなく、互いに補いあうために進展し、社会に連帯を生み出す。
・古い時代の血縁共同体的な連帯は機械的であり、分業がもたらす連帯は高等な生物の器官が連携するような有機的な連帯である。
・分業は恐慌と倒産の増加、資本家と労働者の対立をもたらすこともあるが、これは分業が正常とは異なる病的な状態にあるためだ。
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