レビュー

「昔の偉い人が、嘘を書いてたらどうするの?」。歴史の勉強をするとき、人はだれしも一度はそう考えるのではないか。

要するに、今ある歴史は昔の誰かが書き残したことをもとにしているのなら、その誰かが嘘をついていたらその歴史は嘘になるのでは?という素朴な疑問だ。現に、昔の教科書に載っていることと今の教科書に載っていることは変わったりもする。これはそのまま次のような疑問に発展する。「歴史なんて嘘っぱちじゃないの?」。
本書は、そんな疑問に答える珍しい一冊だ。歴史の専門家である著者が、実際のところ歴史家は何をやっているのか、歴史学の本や論文はどのように書かれているのかを詳しく解説しているのである。実際のところ、歴史が書かれるまでのプロセスはそう単純ではない。歴史の専門家である歴史家には、それ特有の技術が備わっている。歴史が「嘘っぱち」にならないような仕組みがあり、膨大な史料と研究の蓄積によって、私たちは通史というかたちで歴史を知ることができるのである。
歴史を書く人たちの技術を知ることは、歴史を読む側である多くの読者にとって有用である。何かの正当性を主張するとき、歴史が引用されることはよくある。だが、その歴史は本当に「役立てて」いいものなのだろうか。
歴史家が歴史家であるための一線をのぞき見ながら、歴史の役割について考える機会を持ってみてはいかがだろうか。

本書の要点

・歴史家が歴史を論じる際に用いる根拠を「史料」とよぶ。歴史家はそれぞれ異なる思想や関心を持っているが、史料を正確に読み解くという作業を通じて、思想性や恣意性はある程度制限される。
・歴史学の祖と呼ばれるランケは「歴史学は、史料にもとづいてさえいれば、役に立たなくてもいい」という重要な一線を引いた。それは歴史学におけるギリギリ最低限のラインといえるだろう。
・史料に書いてあることがどれだけ信用できるかを考えるのが史料批判である。歴史家が何をやっているかを知る手掛かりは、引用と敷衍という手法にある。



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