レビュー

日本では、豪華列車の周遊旅行のスタイルが人気を博している。列車の旅そのものを楽しむという、その先駆にして代表が「ななつ星in九州」(以下、ななつ星)だ。


ななつ星の旅では、九州各地をゆったりと巡りながら、九州の名店はじめ一流レストラン、料理店のメニューを堪能することができる。客室は木とファブリックを基調にしたクラシックなデザインが施され、柿右衛門窯をはじめとする有田焼の工芸品が車内を華やかに彩っている。3泊4日のコースは100万円を優に超えるが、それでもなお高い人気を誇り、乗車を叶えるには基本的に抽選を要する。
なぜ、これほどの支持を集め、しかも収益を上げられるのか。その背景には、様々な困難を乗り越えた関係者たちの並々ならぬ熱意と奮闘がある。本書を読むと、ななつ星の開業時にJR九州の社長として「世界一の列車」を目指してきた著者の志が、実は何よりの推進力となっていたことがよくわかる。構想段階から、列車のデザイン、製造、クルーの採用や研修に至るまで、ななつ星実現までのリアルストーリーに引き込まれるだろう。
旅の途上、そして終点の「フェアウェルパーティ」で感動の涙を流す乗客がほとんどだという。それほどの感動を生み出す秘密は何なのか。その要諦を、本書を通じて知ることができる。また、このブランドをこれほどまで輝くに至らしめた方法や考え方には、どんな仕事にも応用できるヒントが詰まっている。「人がつくり出す手間暇こそが、人間の感動する大切な要素である」。
著者のこのメッセージをはじめ、心に響く言葉に数多く出合える一冊だ。

本書の要点

・ななつ星の成功要因は、次の5つから成る。「思い切り心ときめく車両」「ほおぉうっと唸る物語」「誰も体験したことがないおもてなし」「わがままで傲慢な、販売戦略とブランディング」「変幻自在の広報宣伝」である。
・著者らは「日本一」ではなく、あえて「世界一」の列車を目指した。この志が列車に関わる全ての人間の魂に火をつけた。
・クルーの心のこもった接客と、地域の人々と乗客の熱意に加え、ななつ星を作り上げた人々の「氣」が感動を生み出し、ブランド力を高めている。



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