レビュー
「犬を食べている民族がいる」と聞くと、多くの日本人は驚くかもしれない。では、そうして驚いている「日本人」が何者なのかを説明できる人はどれくらいいるだろうか。
幅広い試験範囲を網羅しなくてはならない司法試験や医学部受験に何度も挑戦している人は、はたして努力不足なのだろうか。一方で、「今日の出題範囲は得意分野が多くて運がよかった」などと話す人もいる。
「犬を食べない」ことも、「日本人」であることも、努力不足や不運も、すべて「あたりまえ」ではない。大切なのは、そうした日常感覚がいったいどこから来ているのか、ということを意識しようとする姿勢である。暗黙の意味づけ、ひいては文化のあり方を問いなおし、自分が「あたりまえ」だと思っていたことを切り崩す。それを可能にするのが、本書が入門へと導く文化人類学だ。
文化人類学というと、どこか遠くの異国へと赴き、異文化を「理解」するためのものと感じる人もいるだろう。もちろんそうした側面もあるが、「他者を理解しようとしつつ、自らが身につけてきた文化を問い直す」ことが、人類学者のやっていることだと著者は書く。それは、「自分のものさしで問うのではなく、自分のものさしを問う」営みだ。技術の進歩もあいまってグローバルな拡がりがますます展開されている現代、多様性の軸を本物にするためには、誰もが持っていてしかるべき感覚であり、技術といえる。
さて、これを読むあなたの「あたりまえ」はなんだろう。心して向き合っていただきたい。
本書の要点
・文化人類学は、「私たちがあたりまえだと思っていた考え方や価値基準について、それがあたりまえではないことに気づく」ための学問である。
・「どの社会にも『資格』と『場』という2つの集団原理が併存して」おり、「どちらが優勢になるかはその社会の状況次第」だ。
・人類学は、「人間はいかに共通しているか」という問いにも迫る。
・「努力をすれば報われる」という努力信仰は、神秘的な因果関係を説明するためのひとつの世界観のあらわれである。
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