レビュー
YouTubeを観ていて、前から気になっていたゲームのCMが途中で流れ、ついポチってしまう。駅から見える看板の広告が印象に残って、新しいサブスクサービスを登録する。
人びとの行動を左右しているように見える、多種多様な広告たち。しかし、その真なる効果がいかようなものか、具体的に言及するのはなかなかに難しい。インターネット広告では、キャンペーン単位でインプレッション、クリック、コンバージョンなどを計測し、コストと効果を定量化できることから、テレビなどへのマス広告に比べて効果測定をしやすい。それでも、ユーザがもとから持っていた関心やバイアス、他の広告の影響まで考慮に入れると、途端に不明瞭となる。
その困難さに対して、因果推論という科学的な手法を持ち込もうというのが本書だ。
マーケティングにおいて、理科の対照実験のようなことに予算を割けるステークホルダーは少ない。そこで、実際のキャンペーンの後に得られたデータを用いた「観察研究」を行なうことになる。データに対して因果仮説を立て、季節性のような影響要因に対して適切な処理を施すことで、「あたかも実験で得られたデータ」のようにみなす。ざっくりいえば、これが因果推論の骨子だという。
本書のスタンスにあわせて「マーケティングを舞台として因果推論を学ぶ」うち、データを眺めるだけでは見えてこない人間行動が、顔を見せる。「マーケティング」と冠された本ではあるけれど、数字のマジックに引っかかりがちな私たちの誰もが、身につけて損のない手法である。ぜひとも、たたかってみよう。
本書の要点
・多くの例では「因果関係があれば相関関係がある」が、「相関関係があれば因果関係がある」とは必ずしもいえない。
・データを見ただけでは、それが疑似相関なのか原因・結果の関係にあるかを判断するのは難しい。その解釈は、「データの生成過程に深く依存している」。
・データ加工やフィルタリングなどを通してそこに含まれる偏りをできるだけ排除し、ランダム化比較試験に近似した理想的な状態を実現するための技術が、統計的因果推論である。
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