レビュー

本書『知能とはなにか』は、物理学者の田口善弘教授が、AIが急速に進化する現代において「知能」をどう定義できるかを根本から問い直す一冊である。本書の魅力は、単なる技術解説にとどまらず、人間の知能と人工知能を対比しながら、読者に“知能の意味”を再考させる点にある。


現在の生成AIは、深層学習という技術により、大量のデータからパターンを学ぶことで人間のような言語応答を実現している。特にLLM(大規模言語モデル)と呼ばれるモデル群は、膨大な文章をもとに言語を予測する機能を持ち、われわれが日常で感じる“知的な受け答え”を可能にしている。しかし、こうしたAIが実際に“考えている”のかどうかという問いは、技術的進歩とともにより複雑さを増している。
本書では、こうしたAIの仕組みを分かりやすく概観しながらも、技術そのものの説明に偏らず、なぜ私たちはAIに知能を感じてしまうのか、そして「相手に知能があると感じること」と「本当に知能があること」の違いを丁寧に描き出している。
AIに興味はあるが技術書はハードルが高いと感じる人や、AI時代における人間の立ち位置に関心のある読者にとって、本書は知的好奇心を満たし、深い思索を促してくれるだろう。「AIと人間の違いをどう捉えるか」という問いに向き合いたいすべての人に、強くおすすめしたい。

本書の要点

・人間の知能は脳の新皮質で生み出される機能とされるが、その具体的な仕組みは未解明であり、知能の定義自体も定まっていない。
・生成AIは、大規模言語モデル(LLM)などの深層学習によって、人間に近い知的ふるまいを実現しているが、本当に「考えている」わけではない。
・人間の脳と生成AIは、それぞれ異なる原理で動作し、異なる限界を持った「現実シミュレーター」と考えることができる。



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