レビュー

世界の歴史は、人々の自由が拡大し、様々な権利が保障されるようになっていき、民主主義が拡大する方向に進んできたとイメージされている。大きな戦争の犠牲や、ジェノサイドへの反省から、外交問題を解決するための暴力行使は避けられるようになり、人種などの属性に基づく差別的な言動は明白に批難されるべきものと考えられるようになったはずだった。


しかし、現在の世界は、正反対の方向へと進展しているように感じられる。ロシアや中国といった権威主義国家の影響力が高まるだけでなく、アメリカのトランプ大統領再選に見られるように、かつての西側諸国でも権威主義的な傾向が強まっている。差別的な言動が公然となされるようになり、戦争における暴力も収まる気配がない。
こういった事態に対して、これまでも膨大な論考を重ねてきた著者が分析を行ったのが本書である。現状に対して、自由や民主主義、人権を守れとだけ主張することは容易い。それ以上に、なぜこのような事態が生じているのか、歴史と思想を振り返りつつ、根本的に問い直すことが重要である。
それは特に、敗戦をきっかけとして戦前の価値観を逆転させ、自由や民主主義、人権といった西洋の近代的な価値観を受け入れてきた戦後の日本人にとっても、必要とされることだ。本書では、日本人が「敗戦のトラウマ」を本当の意味で乗り越えるために必要となることが、歴史と思想、小説やアニメ作品の分析を通して論じられている。その主張は、これからの日本のあり方を考えるうえでも、示唆を与えるものとなるだろう。

本書の要点

・民主主義は人々の間に価値が共有されていなければ困難だが、貨幣はどんな文化でも受け入れられるため、資本主義は必ずしも民主主義を必要としていない。現代では中国の権威主義と上手く結びつつあり、民主主義と資本主義は離婚の危機を迎えている。
・日本人は敗戦後に自分たちを善意の犠牲者として認識し、戦前を上手く否定できなかった。

西洋近代の過ちの帰結であるガザ戦争の仲介を担うことで、日本人は本当の意味で戦後を克服できる。



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