レビュー
目からウロコが落ちる本である。要約者にとって最大の発見は、「米国企業GEのカリスマ経営者として知られるジャック・ウェルチが唱えて有名になった『選択と集中』は彼の言葉ではない。
著者いわく、1999年以降「選択と集中」なる翻訳語は独り歩きし、事業多角化の否定であったり、リストラの推進であったりという間違った文脈で使われるようになった。実のところウェルチはCEO時代、多くの多角化を進め、新しくはじめたビジネスユニットは約1000にもなるというのに。日本の“失われた30年”の一因はこれだったか、という思いである。
1958年に出版された『日本の経営』という本を思い出した。実はこれも同じ構図であり、著者のジェームズ・アベグレンがこの本で指摘した「終身雇用」の原語はLifetime Commitmentで、終身雇用のより正確な英語であるLifetime Employmentではなかった。それなのに、終身雇用という言葉がいつの間にか独り歩きし、「日本は終身雇用の国だ」という定義に国中が覆われてしまった。言葉の翻訳は実に難しい。特に欧米からの指摘を過度に尊重しがちな日本においては。
それはさておき、「多角化を進めよ」というシンプルな主張ながら、読み手の目からいくつものウロコを落とすであろう本書。企業の経営者や経営企画室の面々はもとより、機関投資家、投資ファンドで働く人たちなら、目を通すべき必読本ではないだろうか。
本書の要点
・コングロマリットは、株価やビジネスを押し下げるようなディスカウント要因ではない。
・バブル崩壊後の日本の経営者は利益減少を恐れ、設備投資を過少にし、人件費を必要最小限にした。今後の日本企業は、売上高伸長の戦略を強化すべきである。
・アメリカでも欧州でも、コングロマリットが経済を牽引している。
・日本企業は「選択と集中」をやめ、積極的に多角化を推進するべきだ。
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