『週刊ダイヤモンド』4月16日号の第1特集は、「神社の迷宮~政財界もビジネスマンもなぜ魅せられるのか~」です。祭りや地域行事を通じて、日本人と神社は親密な関係を築いてきました。
安倍晋三首相の鶴の一声で開催地が決まった伊勢志摩サミット。開催を5月末に控え、カウントダウンが始まっている。
水面下では、サミット参加国の首脳が、そろって伊勢神宮へ参拝する段取りで交渉が続けられている。そうなれば、世界の視線が、伊勢神宮や日本の神道へ注がれることになるだろう。
桜の花びらが舞う3月末、伊勢神宮内宮では、テロへの警戒のため、普段から警備を担当している正職員の衛士に加えて、多くの警察官が動員されていた。
20年に1度──。伊勢神宮には、持統天皇時代から1300年もの長きにわたって受け継がれてきた「式年遷宮」と呼ばれる神事がある。20年ごとに、社殿を新たに造営し、旧殿から神体を移すことをいう。内宮から外宮、14の別宮に加えて、あの有名な宇治橋も全面的にリニューアルされる。
62回目となる式年遷宮は、2013年に行われた。
最も費用がかさむのは、建築に使用される約1万本もの木曽ヒノキである。こうした遷宮作業は、公式には8年の歳月が費やされるとされているが、「収支報告が昨夏に終わったばかり。準備から決算作業までを含めると、12年を遷宮作業にささげていることになる」。神宮司庁のベテラン、石垣仁久・神宮権禰宜はそう語る。
さすがに、世界でも類いまれなる神事なのだろう。予算規模も歳月もスケールが突き抜けている。
では、この550億円もの遷宮費用をどう調達しているのか。
石垣権禰宜によれば、「330億円が自己資金で、220億円が寄付で賄われている」という。
まず、自己資金330億円のうち、最大の収益源となるのが、全国の神社で頒布されている「神宮大麻(天照大御神のお札)」の初穂料である。
13年度の神宮大麻の頒布数は874万体。
それにしても、毎年の初詣の際に惰性で納めたお札の初穂料が、回り回って伊勢神宮の遷宮に投じられているとは、どれほどの国民が認識しているのだろうか。
ある有名神社神職は、「神社本庁は、神宮大麻の頒布数を1000万体にするという無謀な目標を掲げている」と言う。実際には、15年度まで6年連続で減体しており、目標が無謀であることは明白だ。
それでも、神社本庁は傘下に抱える約8万社に対し厳しいノルマを課している。
一方で、220億円の寄付はどのように集められているのか。
その内訳は、財界と神社界でそれぞれ100億円強ずつだという。
神社界も財界も、そして国民も──。全てはお伊勢さんのために。この資金調達システムこそが、伊勢神宮が伊勢神宮であり続けるための根幹となっている。
今、神社界は大きな危機を迎えている。かつては、祭りや地域行事を通じて、日本人と神社は親密な関係にあった。だが、国民の神社や神道への崇敬心が薄れつつあり、氏神・氏子の関係が希薄化している。経営が成り立たず廃業する神社も後を絶たない。
同時に、伊勢神宮を頂点とする神社のヒエラルキー構造にも歪みが生じている。日本の神社界が「迷宮」化しつつあるのだ。