神奈川県横浜市青葉区に誕生した店舗兼用住宅「榧日」(ひび)は、暮らしながら小さな店舗や教室を開く「小商い(こあきない)」ができる賃貸物件。展開するのは、「断熱等級7」という極めて高い性能を持つブランド「Asu-haus(アスハウス)」の旭化成ホームズだ。

なぜ今、ハウスメーカーが賃貸住宅で高断熱と、地域に開かれた暮らしを提案するのか。プロジェクトの核心について話を伺った。

1階の一部を店舗スペースに。ゆるやかに小さな商いに挑戦できる

「榧日」は、1階土間を店舗として使える職住一体型の賃貸住宅。例えば自分の趣味を活かした教室を開催したり、手づくりしたものを販売したりといった、小さな商いを自宅で始められるというもの。住まいと店舗がゆるやかにつながっているため、子どもの様子を見守りながら店番をしたり、日中だけ開店し、夜は自分の居住スペースとして使うこともできる。さらに3軒のうち1軒はキッチン付きシェアスペースとして運営し、コミュニティマネージャーが常駐するため、地域のコミュニティの場としても期待されている。
第一種低層住居専用地域(※)という法規制の中で「全体で店舗部分が50平米以下なら兼用住宅として活用可能」という形を活かし、その50平米を3住戸でシェアし、いかに住宅街に馴染む「商い」を創出するかが鍵となる。

※第一種低層住居専用地域:低層住宅を中心とした良好な住環境を守るための地域で、店舗の用途や建物の面積・高さなどに厳しい制限がある

駅徒歩20分の賃貸住宅でも“あえて”選びたくなる理由。「超高断熱」×「小さなお店が開ける家」の狙い 店舗兼用住宅・横浜市「榧日(ひび)」

「榧日」の間取り。土間4.5畳の002号室と、4.5畳と5.2畳を広げて使える003号室がある。002号室と003号室は飲食店舗不可。001号室はモデルルームで、その一部を当面キッチン付きシェアスペースとし、ニーズによっては今後シェアキッチンとして運営していく予定(画像提供/旭化成ホームズ)

駅徒歩20分の賃貸住宅でも“あえて”選びたくなる理由。「超高断熱」×「小さなお店が開ける家」の狙い 店舗兼用住宅・横浜市「榧日(ひび)」

002号室の暮らしのイメージ(画像提供/まめくらし)

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003号室の暮らしのイメージ(画像提供/まめくらし)

駅徒歩20分の賃貸住宅でも“あえて”選びたくなる理由。「超高断熱」×「小さなお店が開ける家」の狙い 店舗兼用住宅・横浜市「榧日(ひび)」

地上2階の長屋形式の木造住宅で全3住戸。

1階の土間部分を店舗として活用できる(画像提供/まめくらし)

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自分が好きなものをセレクトし、土間部分を雑貨店として利用するモデル例(003号室)(画像提供/旭化成ホームズ)

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土間部分(画像提供/旭化成ホームズ)

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001号室は「キッチン付きシェアスペース」。当面は旭化成ホームズが拠点として運営(活用)し、コミュニティマネージャーが常駐する場所。 地域の方や入居者様が『シェアスペース』としてスポット利用したり、地域の交流スペースとして機能する(画像提供/旭化成ホームズ)

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001号室のキッチンには外とつながる小窓がある。いずれは、シェアキッチンとして、テイクアウトや店内での飲食が可能なお店としての展開も検討中(画像提供/旭化成ホームズ)

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温度を“デザイン”することで、心身ともに幸福感を実現したい

そして特筆すべきが、この店舗兼用住宅が、断熱の最高等級である「断熱等級7」を実現した高断熱・高気密住宅であるということ。
「賃貸住宅では極めて数は少ないと思います」と、旭化成ホームズ GREENOVATION推進室の藤原純一(ふじわら・じゅんいち)さん。「断熱性能だけを上げても、気密がおろそかでは『穴の空いたバケツ』と同じで、暖気は外へ漏れ出してしまいます。 しかし、単に穴を塞いで高気密にするだけでは、空気の逃げ場がなくなり室内の環境が悪化します。だからこそ、気密性能を極限まで高めつつ、熱交換換気によって『計画的に空気を入れ替える』設計が不可欠なのです。この両立には非常に高い精度が必要とされるため、徹底して追求できるケースは限られています」(藤原さん)

では、なぜ、一風変わった「小さな商いのできる賃貸住宅」に、これほどの高機能を求めたのだろう。それは、高断熱・高気密という技術も、“好きや得意”を商いにする暮らしも、その両方が「真の幸せ」を実現するための挑戦だからだ。

旭化成ホームズといえば「ヘーベルハウス」。

長年、鉄骨住宅を牽引してきた企業が、「木造建築が脱炭素社会の実現に資する重要な環境貢献事業である」と位置づけ、住宅の次なるスタンダードとして展開しているのが、低層住宅向け高断熱・高気密の木造住宅「Asu-haus(アスハウス)」である。

「実は、私たちの心と体の健康は、自分たちが思っている以上に、温度、湿度、換気に影響を受けています。一年中、温湿度が安定していることは、前向きな気持ちを醸成するための土台になるんです。つまり、 “物理的な温度”をデザインすることは、“心の温度”を穏やかに保つことにつながるんです。実際に高断熱の住まいに暮らす方からは、『眠りが深くなった』『乾燥せず、肌の調子が良くなった』という声もあるほど。『暑い、寒いを気にすること自体がなくなったんです』と伺ったこともあります。これってすごいことだと思います。
さらに、この『榧日』は、自分の“好きや得意”を生業にする、人と人がつながる拠点であり、情緒的な温度感を大切にするプロジェクトでもあります。
この2つを追求する今回の榧日のプロジェクトは、自社のビジョンが社会にどのように受け入れられるかを問う、テストマーケティングとしての側面も持っています」(藤原さん)

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日本における断熱等級7は欧米諸国と比較しても高い性能を誇っている(画像提供/旭化成ホームズ)

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高断熱・高気密の快適さに加え、国産材をふんだんに使っているため、素材の温かみが感じられる内装(画像提供/旭化成ホームズ)

駅から遠いからこそ、地域住民からの期待も高いはず

非常に面白いプロジェクトだが、東急田園都市線あざみ野駅から徒歩で約20分(バス約10分)。従来の賃貸市場では不利ではないだろうか?
「確かに、駅からの距離といった分かりやすい条件面だけ見れば不利ですが、実はこの青葉区は、自宅を改装してパン屋や、うつわ屋を営む方がいるなど独自の生活圏を持つ文化が既にあるんです。そのため駅から離れていることは大きな障害にはならないと思っています。
というのも、建設地はもともと昭和の時代に高台の邸宅街として居を構えた世代が多く住んでいます。

お仕事で重要なポジションを経験された方々が、現在は多趣味に暮らしを楽しみ、第二の人生を歩み始めている地域でもあります。さらに、その子ども世代もこの地に留まるなど地元愛は強い場所だと思います」と、榧日のコンセプト・建物企画の責任者である、旭化成ホームズの新井一弘(あらい・かずひろ)さん。

駅徒歩20分の賃貸住宅でも“あえて”選びたくなる理由。「超高断熱」×「小さなお店が開ける家」の狙い 店舗兼用住宅・横浜市「榧日(ひび)」

榧日のある青葉区大場町~黒須田エリアは、街全体が計画的に整備されており、緑豊かで落ち着いた邸宅街(画像提供/旭化成ホームズ)

また、榧日のコミュニティ活動の運営は、青葉区のローカルメディアで情報発信をしてきた認定NPO法人「森ノオト」が担う。「森ノオト」のスタッフの坪井陽子(つぼい・ようこ)さんが、榧日の「コミュニティマネージャー」の一人となり、常駐する予定だ。地元をよく知り、こよなく愛するコミュニティマネージャーが常駐することで、入居者同士、地域住民との交流をバックアップできる。

「入居される方のサポートはもちろん、シェアスペースでのイベントや日々の会話を通じて、地域の人々が何を求めているのかを汲み取っていきたい。地域に根ざしたNPOとしてのバックグラウンドを活かし、街の温度を高める手伝いをしたいです」(坪井さん)

現在、榧日は竣工し、入居者を募集中。通常の賃貸のような先着順ではなく、ゆっくり時間をかけて、丁寧な面談形式で入居者を決めていく予定だ。そのためには随時見学会を設けるほか、3月にはミニマルシェなどを開催。どんな場所なのか足を運ぶきっかけをつくっている。

駅徒歩20分の賃貸住宅でも“あえて”選びたくなる理由。「超高断熱」×「小さなお店が開ける家」の狙い 店舗兼用住宅・横浜市「榧日(ひび)」

3月に開催されたマルシェの様子。森ノオトが主催し、青葉区のお店を中心に出店。

地元民がこの場所を知るきっかけづくりになった(画像提供/まめくらし)

駅徒歩20分の賃貸住宅でも“あえて”選びたくなる理由。「超高断熱」×「小さなお店が開ける家」の狙い 店舗兼用住宅・横浜市「榧日(ひび)」

(画像提供/まめくらし)

駅徒歩20分の賃貸住宅でも“あえて”選びたくなる理由。「超高断熱」×「小さなお店が開ける家」の狙い 店舗兼用住宅・横浜市「榧日(ひび)」

(画像提供/まめくらし)

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(画像提供/まめくらし)

「マルシェでは『子育てが終わったら英語教室をやってみたい』『趣味のパンづくりをみんなに披露したい』というような声をお聞きしました。われわれと一緒にこの場を育んでくれるか、地域とのつながりを楽しめるかなど、業種だけではなく、マインドや志を重視し、ミスマッチが起こらないよう、縁を探したいと思います」(新井さん)

「WHO(世界保健機関)のウェルビーイングの定義では、心身が健康であっても、社会から孤立していれば真に健康とは言えない、とされています。単に店舗付きの住宅を提供して終わり、というわけではないんです。2030年には一人暮らし世帯がさらに増加し、孤立大国となる日本において、つながりをつくる暮らしのデザインは不可欠なんです。『榧日』では、入居者が自身の特技や趣味を活かし、本業とは別に小さな商いを行うことで、『ありがとう』という言葉や、自己実現の喜びが、住む人の人生のクオリティを上げると信じています」(藤原さん)

今回の榧日のプロジェクトでは、ハウスメーカーとして「建てて終わり」ではなく、地元密着のNPO法人とも連携し、「暮らしというソフトを含めた価値」を提供しつづけようと、伴走する道を選んだ。大資本による一方的な開発ではなく、地域に根ざした小さな点から街を温めていく。「榧日」の挑戦は、これからの住宅、そして私たちの社会における「豊かさ」の意味を、根本から問い直そうとしているだろう。

●取材協力
・榧日(ひび)
・まめくらし
・森ノオト

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