【芸能界クロスロード】
今年のドラマ界で目立ち始めているのが“トリプル主演”。放送中の「夫よ、死んでくれないか」(テレビ東京系)は安達祐実・相武紗季・磯山さやかの3人が主演の夫婦愛憎物語。
深夜枠で男性2人、女性1人という新しい夫婦の形を描いたTBSドラマも主役は3人。
7月期もテレビ朝日が大森南朋・相葉雅紀・松下奈緒の3人の刑事ドラマ「大追跡~警視庁SSBC強行犯係~」を放送する。
ドラマといえば単独主演が王道だった。放送中のドラマでも阿部寛から北川景子、橋本環奈が主演を務めている。最近はダブル主演もよく見受けるが、トリプル主演は珍しく、新鮮にも見えてくる。
先のドラマのキャスティングから見えてくるものがある。人気全盛期の相葉だったら単独主演だったはずだが、タレント活動が主の相葉に主役は肩の荷が重い。安達・相武、大森・松下は主役よりも相手役で抜群の存在感を放つ俳優。異色なのは磯山。女優のイメージは薄いが主演のひとりに指名された。当初、「私でいいのかしら」と悩んだそうだが、迫真の演技が評判を呼んでいる。「今後、女優としての選択肢が広がった」といわれている。
力のある俳優や秘めた才能のある俳優をトリプルで主演させれば、単独主演以上の馬力を発揮する可能性を秘めている。
映画でも4月に公開された「片思い世界」は広瀬すず・杉咲花・清原果耶のトリプル主演だった。
「映画は昔から大作に主役級の出演者を揃えたが、トリプル主演と打つのは異例。今後の映画界の新たなトレンドになるかもしれない」(映画関係者)
今後のドラマ(映画)界のカギを握るトリプル主演。
芸能史をひもとけば、“3”が「成功する」ラッキーナンバーといわれた時代があった。
昭和歌謡には美空ひばり・江利チエミ・雪村いづみの3人娘が人気を博し、後を継ぐように山口百恵・森昌子・桜田淳子の3人が“中3トリオ”を結成した。男性歌手では橋幸夫・西郷輝彦・舟木一夫の「御三家」に続き、郷ひろみ・西城秀樹・野口五郎の「新御三家」が歌謡界を牽引した。
3人組のキャンディーズ、たのきんトリオ、少年隊もいた。お笑い界では東に伊東四朗がメンバーだった“てんぷくトリオ”。西には3姉妹の“かしまし娘”がいた。ドラマでも時代劇には「三匹が斬る!」「三匹の侍」が茶の間の人気だった。いずれも“3”にこだわった。
最近では北大路欣也がトリプル主演のひとりに名を連ねたテレ東の「三匹のおっさん」も話題を集めた。芸能関係者の話。
「芸能界はジンクスを気にする。鈴木京香や鈴木保奈美が成功すると一時“鈴木”姓の芸能人が増えた。芸名と並び気にするのが数字です」
トリプル主演には最近の俳優事情も垣間見える。
「今の俳優界は若手からベテランまで男女問わず演技達者で個性的な俳優が揃うが、昭和の高倉健や森繁久弥のように単独主演でお客を呼べるスターとなると? 長嶋(茂雄)さんのような俳優がいない」(映画関係者)
映画なら吉永小百合、ドラマなら木村拓哉ら一枚看板を張る俳優は少なからずいるが、毎期主演は張れない。
「トリプルなら俳優の選択に困るほどいる。3人の組み合わせも見どころになる」(同前)
単独主役の時代からダブル・トリプル主役の時代が来ている。
(二田一比古/ジャーナリスト)