ロシアによるウクライナ侵攻開始から約3年半。先月15日のトランプ米大統領とロシアのプーチン大統領との米ロ首脳会談を奇貨に和平への道筋が開けるかと思いきや、事態は深刻化するばかり。
ロシア軍は6日夜から7日朝にかけ、ウクライナの首都キーウにある政府庁舎を攻撃。全土にミサイル13発とドローン810機という過去最大規模の攻撃を仕掛け、少なくとも2人が亡くなった。政府庁舎が被害を受けたのは今回が初めてだ。
これを受け、トランプ大統領は7日、記者団の問いに応じ、ロシア制裁を次の段階に進める用意があるかどうかについて「ある」と断言。ウクライナのゼレンスキー大統領は大規模攻撃を「戦争を長引かせようとするものだ」と非難した。
気になるのは、なぜ今このタイミングでロシアが改めてキーウを標的にしたのかだ。筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう言う。
「トランプ氏は対ロ制裁強化をチラつかせていますが、ロシアへの直接的な経済制裁はすでに実行済みで、強化したところであまり意味がない。ロシア産天然ガスの買い取り増を決めた中国へ制裁を科すかどうかがポイントです。しかし、米中関税交渉のさなかで、実行のハードルは高い。こうした事情をよく理解した上で、プーチン氏はトランプ氏を挑発するかのようにキーウを狙ったのではないか。
プーチン大統領から揺さぶりをかけられたトランプ大統領は苦しい立場だ。
「米国が主導してロ・ウ首脳会談を実現させたいトランプ氏にとって、対中制裁に踏み込めば、プーチン氏をテーブルにつかせることは難しくなります。プーチン氏の挑発に有効な対抗手段を打てないのが実情でしょう。では、どうするか。考えられるシナリオのひとつは、ウクライナへの攻撃を止めるディールとして、ウクライナから手を引くこと。『米国を再び偉大にする』という名目のもと、長引く戦争の責任をヨーロッパ諸国に丸投げする。対ロ制裁強化も『TACO(トランプはいつもビビってやめる)』になるかもしれません」(中村逸郎氏)
かつてトランプはウクライナ戦争を「自分なら24時間以内に解決できる」と言っていたが、その威勢もどこへやら。和平は遠のくばかりだ。