【1975 ~そのときニューミュージックが生まれた】#103


 1975年の映画界


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 今回も特別編で「1975年の映画界」。


 一言でいえば、「パニック映画」大ブームの年だった。

超高層ビル火災を描いた「タワーリング・インフェルノ」、大地震を描いたその名も「大地震」。航空事故を描いた「エアポート'75」などなど。


 これらパニック映画のブームは前年74年のヒット作「エクソシスト」(パニック映画というより「オカルト映画」だが)や「日本沈没」「ノストラダムスの大予言」などの流れをくむもの。つまりは73年・オイルショック以降の、不景気、物価高などの社会不安が背景にあったと考えられよう。


 そしてアメリカでは、この年の夏、パニック映画の決定版のような作品が公開されて、日本では翌年に大ヒットするのだ。


 その映画のタイトルは、もちろん「ジョーズ」。


 邦画では「男はつらいよ」がもう国民的映画となっている。お正月映画の「寅次郎子守唄」のマドンナは十朱幸代。夏休み公開の「寅次郎相合い傘」のマドンナは、ご存じ浅丘ルリ子演じるリリーである。


 そんな75年における映画界のホープといえば、何といっても山口百恵だろう。


 三浦友和との共演作であるお正月映画「伊豆の踊子」、春公開「潮騒」に加え、桜田淳子、森昌子との「花の高2トリオ 初恋時代」をヒットさせているのだから、もはや東宝のドル箱スターだったといっていい。


 あとアダルトビデオの影も形もない時代、映画には「エロチック需要」も寄せられていた。


 洋画ではそういう需要を一気に掘り起こした「エマニエル夫人」が大ヒット、邦画では、関根恵子や大竹しのぶのそういうシーンが話題となった「青春の門」が注目される。


 そんな中、専門外ではあるが、私の見た範囲で75年ベスト作品を選ぶなら、7月公開の高倉健主演「新幹線大爆破」を推したい。


 リアルタイムではなく、かなり後に見たのだが、我を忘れて夢中になってしまった。


 タイトルにあるように、これもパニック映画の一種なのだが、オイルショック後というタイミングで、高度経済成長の負の側面もしっかりと描かれていて、パニック、スリル、サスペンスを超える総合的な見応えを感じたのである。


 今年ネットフリックスでリメークされたのだが、天下のネトフリ、天下の尾野真千子をもってしても、75年版とは比べ物にならなかったと言い切ってしまいたい。


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▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」など。

半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が11月に発売予定。ラジオDJとしても活躍中。


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