【増田俊也 口述クロニクル】#54


 作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇ 


増田「それこそ、ショーン・ペンも何かで叩かれてましたね。娘に説教されたと報道されてましたよ『父さんは古い』って」


加納「でも『古くて結構』って言ってやりゃいいじゃないですか」


増田「大らかに構えていればいいと」


加納「脅威を覚える実存ではないよね。俺は実存にあって感じたいし、人に会って驚きたいし、感心したいし、感銘したいし、ジェラスも覚えたいし。人間の持ってるそういった感情レベルのこと、意識レベルのこと、そういうものが生まれるような相手だといいよね。実存力というか」


増田「その戦いの中で、人間関係とか友人とかできるはずなんですけどね。今の子たちどうなんですかね」


加納「俺にとっては共感されないことに快感があるんだよね。消えない快感というか。何かを作ってる意識もあるだろうし、結果を見てみろっていうのもあるし、自分の証明でもあるし。だから、そういう意味で、アートってのは手段としては共感を呼ばないものだから。その結果、共感呼ぶってのは結果論であって、それはその時代と当時を反射したかっただけのことで、それを最初から求めるっていうようなことはしたらダメだよ」


増田 「そもそも1億2000万人全員の共感は得られないですよね」


加納「共感したらやばいでしょ、そんな社会は。共感してないのが面白いわけだから。

だから共感しないことをこっちは発想して、それを爆弾として落としていきたいですね」


増田「国民の100人に1人に共感されれば120万人ですからね。99人に怒られようが、1人に共感されるだけで120万人ですよ。それを100人全員に共感されようとしてるから、音楽も写真も映画も小さくくなっちゃったんじゃないですかね」


加納「共感という意識は俺全くないっていうか。要するにそれより孤独であろう、独立してろと、なかったものを探せと。それに尽きるから。アートっていうのは」


増田「共感できる友達づくりみたいなのを今の若い子は考えるんですよ」


加納「あらかじめ、友達とか、そういうパターンを持っちゃうからいけなくて。そこがよくない」


増田「友達を作るためのノウハウ本とか恋人を作るためのノウハウ本とかいっぱい売っていますから。ノウハウ本が売れるんですよね。ネットにも大量にノウハウ情報が流れているし」


加納「哀れですね。今の世は」


増田「やっぱりクリエイター、表現者に、もう1回破壊してほしいですね。典明さんにも破壊してほしい」



このままだと様々な文化が消えちまう危険がある

加納「そうですよ。本当。

一閃でもいいですよ、刀の一閃のような言葉。それが20字なのか50字なのか、30字なのか、色々あっていいと思いますよ。で、それに注釈を全部つけても、それはそれでいいかもしれないし、共感のためじゃないように。うん。わからない方がいいでしょうね。読んだ人は『何を言いたいんだよこいつ』って。『わけわかんないよ』って。そういうことでいいんじゃないかな」


増田「そうですね。『共感共感』って言い過ぎなんですよ」


加納「ところで、今、日本で売れてる作家って誰なんですか?」


増田「東野圭吾さんとか宮部みゆきさんとか、昔から売れてる人はずっと売れ続けてます。もちろん村上春樹さん(※)もそうです。村上春樹さんにお会いしたことありますか?」


加納「いや、ないですね」


※村上春樹:1949年生まれの小説家。1979年『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞してデビュー。

1987年に発売された『ノルウェイの森』が1000万部を超える大ベストセラーになる。2006年にはチェコのカフカ賞をアジア圏で初受賞。ノーベル文学賞に最も近い日本人だと言われている。


増田「文芸界では別格の存在で、僕もお会いしたことはないんですが凄い作品ばかりですよね」


加納「小説全体の市場自体は縮小してきてるんですか」


増田「ネット投稿があるので書く人は増えていますが読む人が減っている気がします。だから新人作家の入口は増えているんですが、市場が小さいから入り込めないところもあるかもしれません。音楽もそうですが、スマホに時間を取られているんじゃないでしょうか。かつては空いた時間を何に使うかでそれぞれ趣味を楽しんでいた。歯医者の待合室とか新幹線のなかとか、文庫本読んでいるかウォークマン(※)聴いているか、そんな感じでしたよね」


※ウォークマン:1979年に発売され爆発的ヒットを記録したモバイル型のカセットプレーヤー。その後、カセットテープからCDに変わり、MDになり、現在ではデジタルウォークマンとして続いている。しかし現在ではスマホの音楽再生機能に取って代わられ販売台数が激減している。


加納「たしかに今、みんなスマホ見てるもんな。このままだと様々な文化が消えちまう危険があるな」


(第55回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。

19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


編集部おすすめ