一向に剥がれない"取扱注意"のラベル

「千鳥ノブと渋谷お笑い演芸館」(NHK総合=9月22日放送)では、最近のバラエティーでは珍しく"尖った笑い"に振り切っていた。


 コンセプトは至ってシンプルだ。

笑い飯・哲夫、天竺鼠・川原克己、ランジャタイ・国崎和也、ロングコートダディ・堂前透、真空ジェシカ・川北茂澄のくせもの5人が、東京・渋谷にある架空の演芸館「渋谷お笑い演芸館」で"一番やりたいネタ映像"を披露。これを館長(MC)を務める千鳥・ノブと俳優・長谷川博己が見届ける。


 どのネタもシュールで面白かったが、とくに国崎のネタが目に焼き付いた。東京タワー型の「ミニタワー」に扮した国崎が日中の公園に登場すると、満面の笑顔で「ミニタワーだってね×2 みんなと同じ生きてるんだよ~」などと歌い始める。しかし、「ミニタワーの脳みそは三角脳みそだよ~ん」とタワー上部の表面を開きグロテスクな脳みそを見せてからシリアスなムードに一変する。


 夜になり、赤く点灯するミニタワーの脳みそ。国崎が夜道を駆ける間、内省的なナレーションとともに石ころにつまずいたり、異性に振られたりする回想シーンが差し込まれる。再び映像は、走るミニタワーの国崎に。途中で映り込んだキリンのイルミネーションが遠ざかっていく。


 帰宅後、布団にくるまり「あのとき、キリンいなかった?」と身震いする国崎。その後、前述の回想シーンとキリンが何度も現れては消え、国崎が苦悶し続けラストを迎えた。これを見た長谷川は「すげぇ好きですね」と称賛。

しかし、国崎作品に出たいかを問われると、即座に「遠慮しときます」と断るギャップに笑ってしまった。


 番組後半には、観覧客を入れ5人で大喜利を開催。予想していた通り、ひとりのボケにひたすら乗っかるやりたい放題の展開に。とはいえ、司会のノブが悲鳴を上げつつも終始楽しそうだったのが印象深い。


 いずれも特異な個性で活躍する5人。「M-1グランプリ2010」王者の哲夫は劇場に出演しつつ塾経営者、農家、仏教マニアなど多くの顔を持つ。堂前は賞レースで結果を残しバラエティーでも支持される一方、得体の知れない"怖さ"が漂っている。


 4年連続「M-1」ファイナリストの川北は、まともな会話をせず隙あらば小道具を使って笑わせるイメージが強い。賞レースで知名度を上げた川原や国崎も同じく、ことごとくボケ倒すスタンスでコアなファンを魅了してきた。


 ネタの面白さは認められているものの、一向に"取り扱い注意"のラベルが剥がれない。ノブはそんな彼らの笑いが大好物なのだろう。川原が制作したネタ映像の"喫茶店の店員が無言のまま約45秒間カメラを見つめるシーン"を見て、「気合入ってるねぇ! これNHKで流す根性ある?」と大喜びしていた。


(鈴木旭/お笑い研究家)


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