【芸能界クロスロード】


 今年は邦画の当たり年だった。「国宝」を皮切りに「爆弾」がヒット。

現在も観客動員を続けているのが山田洋次監督の「TOKYOタクシー」。この3作品の共通点が脇役の存在だ。


「国宝」にはハリウッド俳優で数々の作品に主演歴のある渡辺謙が脇を務め、「爆弾」では佐藤二朗の重厚な演技が物語を支えヒットの要因になった。


「TOKYOタクシー」は木村拓哉と倍賞千恵子のダブル主演だが、倍賞の若き日を蒼井優が演じるなど物語の流れの中心は倍賞演じる85歳のマダムの終活に向けたタクシーの旅。現在84歳の倍賞の等身大の演技に「倍賞さんよかった」と観客は魅了された。木村がかすむほどだったが、「倍賞ここにあり」を改めて認識させた。


「男はつらいよ」の寅さん(渥美清)の妹・さくら役を長きにわたり務めた倍賞。その演技は常に自然体。葛飾柴又の“とらや”の店先に本当にいるような親近感を持たれていた。


 倍賞は松竹歌劇団から女優に転身。「紅白」にも出場するなど歌手でも活動していた時期もあったが、ドラマよりも映画に軸足を置きブレることなく今年で64年。「映画女優」と呼ばれる唯一無二の存在だ。


 山田作品に欠かせない倍賞を木村の相手役に起用したことが観客動員につながったと言えよう。


 映画全盛期の昭和の頃は、高倉健勝新太郎と、主演俳優の実力と人気に大きな比重がかかり、脇役は日陰の身だった。そんな脇役がスポットライトを浴びるようになったのは、深作欣二監督の“仁義なき戦い”シリーズだった。


 大部屋出身の川谷拓三や志賀勝らが殺され役であまりにリアルな存在感を放ち世間の注目を浴びた。やがて彼らは「ピラニア軍団」と呼ばれ東京に進出。ドラマやバラエティーでも活躍するまでになったが、本業の俳優は主役の座を狙うことなく脇役に徹した。当時、取材した映画関係者はこう話していた。


「主役俳優はプライドが高く、主役から脇役になることはなく最後まで主役を貫き通した。脇役は自分の立場を理解していて、脇役としての幅を広げ、悪役からコミカルな役に挑戦するなど存在感を高めた」


 次に脇役が注目されたのは10年ほど前。松重豊吉田鋼太郎ら脇役が「バイプレーヤー」と名称が変わり、人気者になった。やがて脇役から主演の座にまで上り詰めた。バイプレーヤーだけのドラマも放送されるなど旋風を巻き起こした。

松重主演の「孤独のグルメ」は今やテレビ東京の看板ドラマになっている。


 最近の脇役はかつてと違い、主演実績がありながら主役をサポートする脇に回っていることが特徴。年末公開の映画でも「ラストマン」には福山雅治の元恋人役で宮沢りえが出演。「緊急取調室」には佐々木蔵之介が襲撃犯役で天海祐希と対峙する。


 吉永小百合のように主演にこだわる俳優がいる一方で、作品、役に応じて柔軟にこなす脇役も出てきたことが映画界に活気を与えているという。


「近年の邦画のヒットは俳優にも刺激を与えている。映画は興行成績がわかるし、海外進出もあれば、日本アカデミー賞など各賞の発表もある。俳優としてのやりがいはドラマよりもある。積極的に出演する人も増えたことで、作品、役に合うキャスティングがしやすくなった」(映画関係者)


 4月公開予定の綾瀬はるか主演の「人はなぜラブレターを書くのか」には菅田将暉妻夫木聡が脇を固める。脇役の充実で来年も邦画界の好調が続く。


(二田一比古/ジャーナリスト)


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