【私と日刊ゲンダイ】
吉川潮さん
(作家・演芸評論家)
◇ ◇ ◇
1997年3月、本紙からテレビ評の連載を依頼された際、とってもうれしかった。というのも、アンチ自民党、アンチ巨人、アンチ大手新聞など、私のポリシーと共通点があるメディアだからだ。
「TV見たまま思ったまま」というタイトルのコラムで、当時から辛口評論家といわれていたこともあって、当然のごとく批判的な評がほとんどだった。番組自体よりも、出演する俳優、タレント、文化人などめった斬りすることが多かった。想像するに、たたかれた方々の所属事務所やファンから、編集部にクレームが来たこともあったに違いない。しかし、担当者からそのような話を耳にしたことは一度もなかった。
もっとも、毎日のように政治家やプロ野球選手をたたいているゲンダイだから、クレームなど日常茶飯事で、屁とも思ってなかったのかもしれない。
まれにほめる評を書くと、その俳優やタレントの事務所から感謝の言葉があり、編集者が伝えてくれた。今は亡き菅原文太さんがドキュメンタリーのナレーターを務めた番組を絶賛した際は、文太さんの奥さまから礼状と仙台名物(文太さんの出身地)のお菓子が送られてきた。編集者と分けて、おいしくいただいたのが良い思い出である。
■テレビさらには劣化し、見るに堪えない愚劣な番組が増えた
25年前にはスマホがなかったので、どんなに過激な評を書いてもSNSで反論されることはなかった。今なら、炎上していたはずだ。そのコラムは15年続いた。私は演芸評論家でもあるので、その後は芸人に関する短期集中連載をやらせてもらった。
連載が終了する25年3月までの9年間に登場した芸人は五十余人。その中で、桂米丸、鏡味仙三郎、桂才賀、林家正楽、林家二楽の5人の師匠方が亡くなられた。今になってみると、元気なうちに話を聞いておいてよかったとつくづく思う。
現在の芸能面で物足りないのは、全体的に辛口批評が少ないことだ。私がテレビ評を連載していた頃よりさらにテレビは劣化し、見るに堪えない愚劣な番組が増えた。特にバラエティーとドラマは目を覆いたくなる。それはタレントと俳優だけでなく、スタッフの劣化でもあり、劣化の原因を追究する辛口批評を求めたい。

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