【2026 新春「笑」芸人解体新書】#1


 たくろう


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 昨年末の漫才コンテスト「M-1グランプリ」では、例年になくハイレベルな戦いが繰り広げられていた。そこで見事に優勝を果たしたのがたくろうである。

おかっぱ頭で挙動不審な雰囲気を持つ赤木裕(写真左)と、もじゃもじゃヘアのきむらバンド(同右)の2人組。


 彼らの漫才の魅力は、一見すると不安定で頼りなさそうな空気の中に、高度に設計された笑いの構造が隠されている点にある。


 きむらバンドは、その名の通り思春期にバンドを組んでいて、自意識を過剰にこじらせて「自分は他人とは違う」という感覚を抱えていた時期があったという。一方の赤木は、部活で野球に打ち込んでいたが実力不足でマネジャーに回されるという屈辱を経験した。


 それぞれ境遇は違うが、反骨精神を抱えてお笑いの世界に入ってきた点では共通している。


 コンビ名は、それぞれの好きなものである木村拓哉とイチローから取られているという。どちらも圧倒的な成功者へのピュアな憧れを抱いているのだ。


 彼らは赤木の挙動不審キャラを生かした漫才で結成当初から高い評価を受けていたが、昨年の「M-1」では新しいフォーマットの漫才を披露して、大爆笑をさらった。


 彼らの漫才が決定的に進化したのは、赤木のキャラを最大限に生かすフォーマットを見つけた点にある。赤木がリングアナやアメリカ人のように「自分に向いていない役割」を強引に押し付けられることによって、おどおどして変なことを言ってしまう面白さを際立たせることに成功した。


 漫才の構造も画期的だった。漫才はボケとツッコミの応酬が基本だが、彼らの漫才にはツッコミが存在しない。

赤木の発言がどれだけズレていても、きむらはツッコんだり訂正したりせず、淡々と次の話を振っていく。この冷淡さが赤木の不安や戸惑いを増幅させ、観客の笑いを連鎖的に呼び起こしていた。


 赤木は普段から誰かと会話している最中に別のことを考えてしまうようなタイプだという。そんな彼のキャラクターをそのまま漫才に生かしているからこそ、赤木の言葉には「本当に困っている人」のようなリアリティーが宿っていた。


 キムタクやイチローのような絶対的スターに憧れていた2人が、独自の漫才スタイルで「M-1」を制して、漫才界の星として輝き始めた。 (つづく)


(ラリー遠田/お笑い評論家)


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