【再発見 ちょうど10年前のテレビ】#2
今からちょうど10年前の2016年4月、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」がスタートした。父を亡くしたヒロイン・小橋常子(高畑充希)が、家族を守る「とと(父)」の役割を担い、戦前・戦後の激動の時代を生き抜く物語だ。
常子は戦後の東京で天才編集者・花山伊佐次(唐沢寿明)と出会い、婦人家庭雑誌「あなたの暮し」を立ち上げる。高畑が演じた前向きなキャラクター、家族の強い絆、そして丁寧に描かれる市井の日常も好評だった。
この常子にはモデルがいる。戦後から現在まで続く雑誌「暮しの手帖」の創刊者・大橋鎭子だ。花山伊佐次は花森安治である。しかしNHKは「モデル」ではなく、「モチーフ」だという。では、両者はどう違うのか。
モデルの場合、実在の人物や史実そのものを比較的忠実に再現していく。朝ドラでは「カーネーション」の小篠綾子(ファッションデザイナー)、「らんまん」の牧野富太郎(植物学者)などだ。
一方、モチーフは「表現する動機や着想」を指す。実在の人物や出来事を「題材」や「ヒント」にしてストーリーをアレンジする。モデルよりも自由度が高いので、面白さを優先することが可能だ。
たとえば「花子とアン」は明らかに村岡花子(翻訳家)がモデルだが、物語展開はオリジナル要素が強かった。「とと姉ちゃん」も同様だ。
ただ、放送当時気になることがあった。常子が静岡県で生まれ育ったという設定だ。大橋鎭子の自伝的エッセー「『暮しの手帖』とわたし」には、「生まれたのは現在の市ヶ谷駅近くにあった病院」とある。静岡ではなく東京出身なのだ。
幼い頃、父親の仕事の関係で北海道に住んだことがある。本の中で鎭子は「野原で一日中遊ぶガキ大将」だったと言い、「そのころの私の無鉄砲さというかこわいもの知らずが、決心したら何としてでも実行するという、私の性格の土台になっているのかもしれません」と回想している。
ヒロインが東京や大阪へ向かうまでの「地方編」は朝ドラの定型だ。しかし北海道ならともかく、静岡には縁もゆかりもない。モチーフとはいえ、実在の人物を下敷きにしているのだ。人格形成に関わる部分を大きく変えるべきではないだろう。
先週から今期の朝ドラ「風、薫る」が始まった。舞台は明治時代。見上愛と上坂樹里が演じるヒロインは、日本初の「西洋式看護教育を受けた看護師」である大関和と鈴木雅がモチーフだ。実在の女性2人と描かれる2人のヒロインの「重なり」と「差異」にも注目しながら見ていきたい。
(碓井広義/メディア文化評論家)

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