アニメーション映画「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉」の公開日が8月28日に決定した。同作はこれまで、2024年冬公開、2025年冬公開、2026年2月公開……とたびたび公開日が延期されてきたが、具体的な日にちが確定したのは初めてのことである。

ネットでは、「ようやく公開日が決まった」と安堵したファンも多かったようだ。


 近年、アニメの公開日が延期されるケースが相次いでいる。直近では、TVアニメ「ここは俺に任せて先に行けと言ってから10年がたったら伝説になっていた。」は、4月放送の予定が7月に延期されたほか、TVアニメ「探偵はもう、死んでいる。」の第2期、TVアニメ「時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん」の第2期、TVアニメ『ふつつかな悪女ではございますが~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』が、それぞれ延期されている。


「アニメの公開日が延期されるのは、制作の遅れが原因であることがほとんどですが、注目度が低いタイトルの場合、人件費や制作費の高騰から水面下で制作がストップし、公式サイトが消滅したり、クラウドファンディングでファンから資金を集めたまま、数年間何の動きもなく放置されたりしたアニメもある。『魔法少女まどか☆マギカ』はビッグタイトルだけに、延期されても、そのたびに告知が出るだけマシですね」


 こう話すのは、アニメ制作会社の関係者である。今や日本のコンテンツ産業は3兆円を超える規模といわれ、政府もアニメを海外に輸出し、外貨獲得につなげようと躍起だ。その一方で、アニメ業界は慢性的な人材不足に悩まされている。国内のアニメーターは推定5000~6000人。この人数で、テレビアニメだけで年間約300本前後を制作する。現場は常にカツカツで、スケジュールの混乱が起こっているという。


「美しい映像を作ることで人気の高いアニメスタジオは、数年先まで予定が埋まっているといわれていますし、その影響は中小のスタジオにも及んでいます。そのため、資金を集めても制作に乗り出せないことが少なくありません。

どこのスタジオもパンク状態ですし、複数の案件を抱えていた場合は少しでも予定が狂うと、すべての作品に影響が及んでしまうのです」(アニメ制作会社の関係者)


■中国で描かれた絵を日本で直す


 近年のアニメはより作画が緻密になり、1枚の動画を仕上げるだけでも相当な時間がかかる。その分アニメーターが必要で、業界では慢性的な人材不足を補おうと、古くから中国などに外注を行ってきた。ところが、頼みの綱だった中国も経済成長に伴って賃金が上昇。円安も影響し、制作費は上がる一方なのだ。


 放映日に間に合えばいいと考えるアニメスタジオは、「とにかく動きさえすればいい」「なんでもいいから描いてくれ」と、海外に動画を発注するケースもあるというが、それがトラブルの原因になる。とても放映できるレベルではない絵が上がってきて、日本のアニメ会社が尻拭いをさせられる状況に陥っているそうだ。前出の関係者が言う。


「以前に、北朝鮮で日本のアニメの動画を描いていたことが話題になりましたが、中国のスタジオがさらに他国のスタジオにばらまいているという噂もある。そういった海外のスタッフが描いてきた動画は、子供が描いたのではと疑ってしまうほど酷いレベル。結局、日本の地方などにある小規模なスタジオが、ゼロから直すという悪循環に陥っています」


 地方のアニメスタジオで働いているアニメーターには、「とにかく寝る間もなく、流れ作業で絵を修正する日々が続いている」として、さらに続ける。


「我々はもはや、“作画崩壊”どころか“放送事故”を起こすのを水際で止めているようなもの。ほとんど納期まで時間はないため、考えている余裕すらありません。

放送できる最低限のレベルに直すのが自分の仕事ですが、あまりに下手な絵を直す羽目になるので、これなら最初から国内で描いたほうが早いのでは、と思うほどです」


■低クオリティーのアニメが量産されている


 複数のアニメーターに取材をして聞こえてきたのは、現場からの悲鳴である。納期がギリギリで、不完全なまま放送されるアニメはもはや珍しくないという。一昔前であれば、そういった低クオリティーのアニメは“作画崩壊”と揶揄され、ネットで嘲笑されたが、近年はアニメの本数が多すぎるせいか、低クオリティーのアニメは“視聴されているかどうかさえ怪しい”のである。


 人気アニメなら、SNSには必ずリアルタイムでコメントを書き込む人がいる。ところが、低クオリティーのアニメだと、SNSがまったく盛り上がらない。Xでのポストがまったく見当たらないケースもある。悲惨な作画崩壊を起こしているにもかかわらず、視聴者が少なすぎて話題にすらならないという、笑えない状態なのである。


 いったいなぜ、低クオリティーのアニメばかりが量産されるのか。1つの要因は制作会社の事情だ。コンテンツビジネスが盛り上がっているため、それまでアニメ制作に関わったことがないIT系の企業や芸能事務所までもが乗り出していて、そもそもアニメに関する知識も愛情もない。とにかく資金を集めてアニメスタジオに丸投げし、あとは当たるのを待つという感覚だ。


「アニメは、ドラマや実写映画などと比べても制作費が圧倒的に安い。

そのため、どんなものでもいいから制作し、数を打てば当たるだろう、と考えている人が少なくありません。しかし、そういった作品に良い人材が集まらないのは当然のこと。ヒットするわけがないのですが、元締めはカネさえ集めて中抜きをすれば儲かるので、やめられないのです」(前出の関係者)


 代わり映えしない“異世界転生物”や“美少女恋愛ラブコメ”ばかり制作されるのは、手っ取り早くメディア展開がしやすいことや、スポンサーを説得しやすく、資金集めがしやすいためである。あるアニメーターは、「アニメは音楽とグッズを売るための、ただの“販促物″になっている」と嘆いていたが、そんなアニメが日夜制作され、放送されているのが現状だという。


■低クオリティーアニメは人材育成につながらない


 低予算、低品質のアニメであっても、若手の人材を育てる貴重な機会であり、制作すべきだと指摘するアニメ関係者もいる。だが、前出のアニメーターは「質の低い作品を担当させても上手くならない。途中でしんどくなって辞める人が多いだけで、人材の使い捨てでしかない」「作品数を絞って、丁寧にアニメを作るスタイルに回帰した方がいい」と訴える。


「新人は有能なベテランアニメーターのもとで学ぶと、みるみる上達するんですよ。しかし、コロナ禍以降、アニメ制作の現場ではリモートが進み、新人がベテランから教わる機会が極端に少なくなっています。新人は教育を受けないまま、自宅で黙々と動画を描いている状況。専門学校を出た人材は毎年供給されますが、精神を疲弊して辞める人が多く、ほとんど残らないのです」


 3兆円産業という数字が独り歩きしているコンテンツビジネスだが、現場からはポジティブな声が一向に聞こえてこない。現場の疲弊によって生み出されるのは、原価数十円のものを100倍もの値段で売るグッズのような、ファン心理を利用した集金ビジネスでしかない。

これではあまりに悲し過ぎである。改めて業界全体で、コンテンツビジネスと新人育成のあり方を考え直すべきであろう。


(宮原多可志/ライター)


編集部おすすめ