JR東日本が先週、現在製作中の次世代新幹線試験車両「ALFA-X」を、神戸市にある川崎重工業の工場で報道陣に公開した。2030年度に予定されている北海道新幹線札幌延伸までに、世界最速となる360km/hでの営業運転実現を目標としており、この試験車両で検証していくとのことだ。

世界最速360km/hを目指す東北新幹線。「4時間」の壁を超えれば飛行機に勝てるのか!?
出典:JR東日本プレスリリース「新幹線の試験車両ALFA-Xのデザインおよび開発状況について」

筆者は少し前のコラムで、自動車以外はスピード競争は一段落していると書いた。その内容を覆すような発表に思われるかもしれないが、東北新幹線では以前から360km/hへの最高速度引き上げが何度も議論に上っていたことは知っている。今回の一件も、昨年7月に次世代型新幹線の開発を始めるとJR東日本は発表しているので、想定内の動きではある。

ただし全区間で360km/h運転を実現するわけではない。現在の東北新幹線の最高速度は、東京~大宮間が110 km/h、大宮~宇都宮間が275 km/h、宇都宮~盛岡間が320 km/h、盛岡~新青森間が260 km/hと区間によって異なっており、360km/hに引き上げられるのは320km/hの宇都宮~盛岡間が有力だ。ちなみに北海道新幹線は青函トンネル周辺が140km/h、それ以外が260km/hで、建設中の新函館北斗~札幌間も260km/hとなるという。

東京~宇都宮間の最高速度が低いのは騒音振動対策、盛岡以北は1970年代に作られた整備新幹線のルールによるためだ。青函トンネル周辺は在来線の貨物列車が共用していることが理由だが、来年3月からは160km/hに引き上げられるので、これまで最速4時間2分だった東京~新函館北斗間が3時間58分と、4時間切りを実現する。

■ニセコへの観光客が新幹線にシフトする!?

新幹線は飛行機が最大のライバルと長年言われており、選択の分かれ目は4時間という声が多かった。たった4分の短縮にすぎないが、1000円と998円の違いと同じで、多くの人に速くなったという印象を植え付けるだろう。

では360km/hが実現したらどのぐらいの時間短縮になるのか。以前、宇都宮~盛岡間が300km/hから320km/hにアップした際は、東京~新青森間で10分ほどの時間短縮だったので、単純計算すれば約20分の時短になりそうだ。

さらに盛岡~新青森間でも引き上げを前提とした試験走行が行われているそうで、ここも360km/hになれば東京~新函館北斗間は3時間半を切れるかもしれない。現状では5時間1分と言われている東京~札幌間についても、道内が360km/hに引き上げられれば4時間切りが可能という算出がある。

でも整備新幹線として作られた区間は、利用者が少ないことを見越して、建設費を抑えて建設している。ゆえに最高速度を抑えているのだ。開業後のメインテナンス費用も260km/hなら抑えられる。360km/hに上げるとなるとコストアップは確実。JR北海道にそれを受け入れる力があるだろうか。

それに道内が260km/hのままでも注目を浴びそうな場所はある。世界的な観光地になったニセコだ。飛行機を使っても東京羽田から新千歳空港まで1時間半、そこからバスで2時間半掛かる。ニセコの玄関口になる倶知安駅まで東京から4時間ぐらいで行ければ、ほぼ互角になる。新幹線は飛行機よりも雪に強いことは知られており、東京からニセコへ向かう観光客が新幹線にシフトするかもしれない。

筆者はスピードよりも、鉄道の優位性をもっと新幹線に投入してはどうかと考えている。具体的にはJR東日本の「TRAIN SUITE四季島」をはじめ、全国各地で走っている観光列車のノウハウを取り入れるということだ。鉄道は移動中のシートベルト着用が義務付けられていないし、車内空間は飛行機に比べてかなり余裕がある。それを生かし、かつては存在していた食堂車やカフェなどを復活したり、横になれるスペースを用意したりして、速さ以外の価値も提供してもらいたいという気持ちがある。

座って仕事をするもよし、横になって仮眠するもよし、沿線の味覚を味わうのもよし、という選択ができれば、同じ4時間超えでもずっと楽しめるのではないか。世界の乗り物が速さ以外の部分に比重を置きつつあるのは事実であると思っている。新幹線にとって世界最速の看板はたしかに大切ではあるけれど、一部の列車だけでも観光化を進めてみてはいかがだろうか。それによって乗客が増えたり客単価が上がったりすれば、JR北海道にとってもプラスになるだろうから。

【著者プロフィール】

モビリティジャーナリスト 森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。

著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。

THINK MOBILITY:http://mobility.blog.jp/

編集部おすすめ