鉄道やバスの減便や廃止は地方に限った話。このように思っている人は多いかもしれない。

この路線は、同じ地域を走る他の多くの路線バスとはやや違う、公共交通空白地域を含めた住宅地帯を縫いながら走っており、高齢者会館や特別支援学校などを巡っている。細い道を走ることから、車両はコミュニティバスに多用されている日野自動車のポンチョが起用されていた。改正後は空白時間帯となる昼時に、高齢者会館の前にあるバス停を訪れると、数人の利用者がおり、バスの車内にも乗客が確認できた。利用者の減少だけで減便に至ったわけではなさそうだった。
気になって京王バスのウェブサイトを見ると、何度か利用したことがある渋谷駅と初台駅を結ぶ路線が運行終了というお知らせもあった。渋谷駅と初台駅の間はほかにも路線があるが、いずれも大通りを経由するのに対し、この路線だけは一部で細い道を経由している。ゆえに沿線住民にとっては唯一の公共交通になる。
そんな裏事情があるにせよ、日本を代表するターミナルであり、ハロウィンの時などは若者が集まりすぎて大混乱になる渋谷駅を発着するバスが、運行終了というのはかなりショッキングだ。
夕刻に初台駅バス停を訪れてみると、10人ほどの利用者がバスに乗り込んでいた。
東京23区内を走る他のバス事業者のウェブサイトを見ると、多くは時刻変更とあり、便の増減は分からない。しかしツイッターでは減便という書き込みがいくつか見られた。ニュースリリースでも正確に増便・減便と書いている京王バスは立派だと思ったが、いずれにせよ、一極集中で需要には事欠かないと思われている東京23区内でさえ、こうした問題が起こりつつあるわけだ。
もちろん23区内はバス以外にもさまざまな公共交通があり、タクシーもたくさん走っているから、移動手段には事欠かないという意見もあるだろう。しかし今回紹介したバス路線が走るような交通空白地域はタクシーは呼ばないとやってこないし、そのタクシーも運転士不足で悩んでいる。それに東京は駐車場代が高いのでマイカー所有が困難という人も多い。
渋滞もある道路を、路上駐車車両を避けながら、乗客の安全快適を第一に走行し、停留所との間隔が小さくなるように停め、両替を含めた運賃収受のみならず行き先案内も行う。路線バス運転士の業務が大変であることは端で見ていても分かる。働き方改革で過酷労働がご法度になったことも関係しているだろう。
この問題を解決するにはどうすべきか。
首相官邸が毎年発表している官民ITS構想・ロードマップの2018年版では、限定地域における無人運転移動サービスを来年2020年までに市場化・サービス実現期待としている。路線バスの危機が地方のみならず、東京23区にも押し寄せている現状を考えれば、いち早く推し進めるべきではないかと感じている。
【著者プロフィール】
モビリティジャーナリスト 森口将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。
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