2026年1月13日、世界的なエネルギー危機の余波と脱炭素社会への移行が加速するなか、電力供給の主権を巨大資本から個人や地域へと分散させる「エネルギー民主化」の動きが、国際社会で大きな潮流となっている。欧州ではロシア産天然ガスへの依存脱却を背景に、太陽光などの「分散型電源」の導入が安全保障上の急務となり、米国ではデジタル技術を駆使した新興勢力が、これまでの巨大な電力網(グリッド)の仕組みを揺るがしている。
こうした時代の大きな変わり目は、エネルギーの多くを海外に頼り、硬直した供給構造を維持してきた日本にも、避けては通れない変革を迫っている。

その他の写真:世界的な電力変革の波、日本へ テスラ追う「分散型」の新興勢力 「でんき0(ゼロ)株式会社」

 こうした世界の流れに呼応するように、実業家の三崎優太氏は、都内で記者会見を開き、電力事業への本格参入を表明した。自ら代表を務める「でんき0(ゼロ)株式会社」を通じて、太陽光発電と蓄電池を組み合わせた新たな電力サービス「でんき0」を開始する。物価高で電気代が家計を圧迫するなか、三崎氏は「人生を賭けると決めた挑戦だ。既得権益化された日本のエネルギー産業を構造から変えたい」と述べ、不退転の決意を強調した。SNSなどで培った圧倒的な発信力を生かし、広告費を抑えて顧客を獲得するという独自の戦略で、旧態依然としたエネルギー市場に一石を投じる構えだ。

 今回の「でんき0革命」と称される事業の核心は、各家庭を「小さな発電所」にする点にある。具体的には、一般家庭に太陽光パネルと蓄電池を導入し、昼間に作った電気を貯めて使うことで、電力会社から買う電気を最小限に抑えるモデルだ。特筆すべきは、使いきれずに余った電気の買取価格である。国が定めるルール(FIT制度)を上回る価格で、20年間にわたる長期買取を保証する。三崎氏は、従来のエネルギーの仕組みを「持たざる者が損をする構造」と断じ、独自の経済的な工夫によって電気代の「実質ゼロ化」を目指すという。

 この野心的な構想を技術面で支えるのが、香川県高松市に本拠を置く日本エネルギー総合システム(JPN)との提携だ。
JPNは再生可能エネルギーの設計から建設、その後のメンテナンスまでをすべて自社で行う実力派企業であり、特に中四国エリアを基盤に高い市場シェアを誇る。同社が持つ全国規模の施工網と蓄電池を運用するノウハウは、三崎氏のビジョンを現実の事業として動かすための不可欠なピースだ。これまでの「新電力」の多くは、自前の発電設備を持たずに市場から電気を仕入れて売るだけの「転売モデル」だったため、市場価格が上がると経営が悪化する弱点があった。しかし、技術のプロと組むことで供給の裏付けを確保した点は、後発の参入ながら現実的な戦略と言える。

 「でんき0」の収益モデルが長く続くかどうかを分析すると、既存の新電力会社との決定的な違いが見えてくる。多くの新電力は、卸電力市場の価格変動に左右されやすく、ウクライナ危機のような事態が起きると経営が非常に不安定になる。対して「でんき0」は、顧客の住宅に資産を分散して配置する「アセット(資産)ベース」のモデルを追求する。さらに、三崎氏自身が広告塔となることで、従来の電力会社が投じてきた莫大な広告宣伝費や手数料を削減し、その分を顧客への還元や電気の買取価格に充てることができる。この「個人のブランド力と実業の融合」による低コスト構造が、長期間にわたって安定した運営を可能にする鍵となる。

 こうした起業家によるエネルギー市場への「破壊的な参入」は、世界的なトレンドでもある。米国ではテスラのイーロン・マスク氏が「テスラ・エナジー」を通じて、電気自動車(EV)と家庭用蓄電池、太陽光パネルをセットにした仕組みを構築している。テスラは、各地に分散した蓄電池をインターネットでつなぎ、ひとつの大きな発電所のように機能させる「仮想発電所(VPP)」という仕組みで、電力網を安定させる役割も担い始めている。
また、英国でも「オクトパス・エナジー」という新興企業が、最新技術を武器に既存の巨大電力を脅かすシェアを奪っている。三崎氏の挑戦も、これら海外の事例と同様に、最新技術と個人のブランド力によって、エネルギーという国の基盤を民衆の手に取り戻すプロセスとして捉えることができる。

 もっとも、インフラ事業への参入には特有の課題も多い。20年という長期にわたる機器のメンテナンス体制を維持できるか、また電力市場の激しい変動に対してどこまで耐えられるかという点だ。専門家の間では、知名度を背景にした新しい参入を評価する声がある一方、複雑なルールが絡む電力産業において、掲げた公約が本当に持続できるのかを注視する視線は厳しい。三崎氏の挑戦が、単なる一過性の話題作りで終わるのか、それとも日本のエネルギー改革の起爆剤となるのか。その成否は、掲げたビジョンが単なる安売りを超えた社会的価値を、いかに早く証明できるかにかかっている。
【編集:Y.U】
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