習近平政権の足元が、かつてない激震に見舞われている。2026年初頭、北京から伝えられたのは、人民解放軍のトップ2名が事実上の「粛清」に追い込まれたという衝撃的なニュースだった。
今回の事態は、単なる汚職の摘発という枠組みを遥かに超え、政権の根幹を支える軍部と習近平国家主席との間に、修復不可能な亀裂が生じていることを如実に物語っている。

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 更迭された幹部の中でも、特に注目すべきは張又侠氏の存在である。張氏は実質的に制服組のトップとして軍の司令官的役割を担ってきた人物であり、その地位は極めて重い。これほどの重鎮を排除せざるを得なかった背景には、党中央規律検査委員会が発表した「重大な規律違反」という言葉が重くのしかかっている。中国共産党の文脈において、単なる「腐敗」ではなく「重大な規律違反」とされる場合、それは金銭的な問題を超えた、党中央、すなわち習近平氏に対する政治的な裏切りや忠誠心の欠如を指すことが一般的である。習氏が台湾統一という悲願を掲げる中で、本来であれば作戦の要となるべき軍のリーダーを更迭するという決断は、たとえ軍の運用に支障をきたしてでも排除しなければならない「許しがたい過ち」が軍内部に存在したことを示唆している。

 この不協和音を象徴するエピソードが、2025年末の軍幹部認証式での一幕である。新たに抜擢された幹部に習氏がメダルを授与する際、周囲の最高幹部たちが一斉に起立して拍手を送る中で、張又侠氏だけが座ったまま動かなかったとされる。この場面を捉えた情報は、当局の厳重な情報統制下にある中国国内のSNSでも、暗号のような言葉で密かに語り継がれている。真偽の詳細は不明ながらも、こうした断片的な情報が積み重なることで、習氏と軍部との間に生じた決定的な「亀裂」の輪郭が浮き彫りになっている。現在、中央軍事委員会は習氏を除けば残るメンバーがわずか1名という異常事態に陥っており、組織としての合議制や討論の機能は完全に失われ、習氏が直接指示を伝達するだけの空洞化した組織へと変貌を遂げている。

 しかし、政権を揺るがしているのは軍の問題だけではない。
経済の血管とも言える金融システムにおいても、マグニチュードで表すことができない金融崩壊に匹敵する巨大な不祥事が露呈した。中国の3大政策銀行の1つである中国農業発展銀行において、長年にわたり行われてきた巨額の「詐欺的融資」が人民銀行の監査によって明るみに出たのである。その額は2兆人民元、日本円にして約20兆円を超えるという、天文学的な数字である。本来、農村のインフラ整備や穀物の買い付け資金として充てられるべき政策資金が、実際には地方政府を経由して不動産開発へと組織的に流用されていた。これは明白な違法行為であり、金融当局が徹底的に調査を進めれば、中国全土を巻き込む金融危機へと発展しかねない「毒」が、システムの深部にまで回っていることを意味している。

 なぜこれほどまでの腐敗と混乱が、習近平政権発足から12年を経てなお拡大し続けているのか。その根源には、習氏が抱く「誰も信用できない」という極度の不信感と、それによって引き起こされた人事の機能不全がある。習氏に近い取り巻きたちは、保身のために過剰なまでの忖度とゴマすりに終始し、実力や専門性を持った軍人や技術官僚たちの間には、現状のやり方に対する強い不満が鬱積している。特に、軍の長老の息子であり「紅二代」としての絆を共有していたはずの張又侠氏のような人物でさえ、権力の前では信頼関係が崩壊し、粛清の対象となる。これは、習氏の求心力がもはや恐怖政治によってのみ維持されており、内実を伴わなくなっている証左であろう。

 3月5日に開催される全国人民代表大会(全人代)を前に、新たな人事の抜擢が進められるだろうが、誰を起用しても「いつか裏切られるのではないか」という疑心暗鬼の連鎖を止めることは難しい。金融面では、監査が機能しない中で資金が経済活動に寄与せず流出し続け、中国経済はデフレと貸し渋りの泥沼に沈みつつある。
かつての日本のバブル崩壊時以上の深刻な状況が、腐敗という形で増幅されているのである。ひたすら個人の崇拝を煽り、周囲をイエスマンで固める統治手法は、今や組織の崩壊を招く限界点に達している。軍部の動揺と金融システムの腐敗という2つの火種を抱えた習近平政権は、かつてないほど不安定な砂上の楼閣の上に立たされていると言わざるを得ない。北京の静寂の裏側で、体制を根底から覆しかねない地殻変動が、今この瞬間も確実に進んでいるのである。
【編集:af】
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