世界保健機関(WHO)によると、世界で道路交通事故により年間約119万人が死亡し、5歳から29歳の主要な死因の一つだ。速度、飲酒、道路環境など原因は多いが、車両を安全に保つことは運転者が日常的に取れる基本策だ。
路面と車体をつなぐタイヤは、空気圧や摩耗、取り付けのわずかな不備でも制動や安定性が変わる。
日本自動車タイヤ協会(JATMA)の2025年の点検では、対象車両の53.8%に整備不良が見つかり、空気圧不足だけで49.7%を占めた。交換作業は速さだけでなく、締め付け、空気圧、損傷確認、作業後の説明にも正確さを要する。人手不足でも安全水準を保つには、技能を個人の経験に閉じず、外部基準で測って継承する仕組みが必要だ。
大型トラック・乗用車を扱う株式会社比良タイヤ工業所は、人材育成を成長戦略とする。同社によると、社員5人が作業コンテスト全国大会に出場。清水惇氏は2022年「技能グランプリ」で技能マイスターに認定、片岡祐太氏は2025年「第15回DTS全国TBタイヤ作業コンテスト」で優勝した。田中佑弥代表は「人が育つ日本一のタイヤ企業」を目指す。工具の扱い、締め付け確認、作業順序、声掛け、車両返却までが外部基準で評価される。
全国大会への挑戦で、社内で継いだ技術に外部の物差しが加わった。「自分たちは上手い」と内輪で語らず、競技で作業を客観的に評価してもらう。清水氏の技能マイスター認定と片岡氏の全国優勝は、異なる制度で複数の社員が残した実績だ。
その評価は社員の自信となり、顧客に適正価格を説明する根拠にもなったという。

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外部基準で測った技術は、受賞者だけのものにしない。同社は大会やマイスター制度の評価を日常教育へ戻す。受賞歴を宣伝で終わらせず、手順や確認方法を組織全体の品質向上につなげる点に、技能大会へ挑む意味がある。
日常教育では、技術の意味を顧客の暮らしから捉え直す。タイヤの仕事は商品交換だけではない。空気圧や摩耗の見落としは事故や車両停止を招く一方、静かなタイヤは家族の会話を支え、正確で速い作業は物流や通勤の時間を守る。同社は、技術者が「何を付けるか」に加え、どんな生活価値を届けるかまでの理解を重視する。
顧客への価値が高まれば、担い手にも適切な報酬が必要だ。田中氏は、精神的な誇りだけで専門職を支えず、社員の平均年収の高さを会社の誇りにしたいと考える。利益を給与、研修、設備へ戻し、2030年に年商20億円、社員平均年収700万円を目標に掲げた。

報酬につながる役割を増やす点でも、多店舗展開は重要だ。
同じ規模では、技術を磨いても店長や教育担当の席は限られる。新店舗ができれば、若手が責任を持ち、先輩は教える側へ回り、法人顧客の管理や店舗経営を学ぶ機会も増える。売上とキャリアの拡大が重なる。
各店へ品質を広げる一策は、競技で確認された手順を現場へ戻すことだ。大会に挑む社員だけを特別に育てるのではなく、指摘された確認方法や声掛けを共有し、新人教育の基準へ加える。個人の受賞を看板にとどめず、全員の作業品質を高める材料に変えている。
利益、教育、報酬の循環が要る背景には、整備業界の人手不足がある。待遇を我慢させる採用は続かない。技術を高め、価値に合う料金を受け取り、社員へ還元する。同社が目指すのは、タイヤの仕事を若い人が将来を託せる専門職へ変えることだ。

専門職としての将来を示すには、技能の評価基準も明確にする。作業速度に加え、安全確認、顧客への説明、後輩指導、法人車両の管理など、役割ごとに求める力を示す。
社員は、次に何を身につければ報酬やキャリアにつながるかを理解できる。

この流れを踏まえると、同社の信用を支えるのは全国大会の肩書だけではない。安全を守る技能を、顧客価値、適正価格、社員の報酬とキャリアへ一貫してつなげる点に本質がある。技術者が長く働ける収益構造を築けば、地域整備業の持続可能性を示すモデルとなり得る。

取材を通じ、同社が目指すのは、技能の高さを適正価格と社員の将来へつなぐ経営だと感じた。タイヤ技術者が安全を担う専門職として正当に評価される業界へ、同社はどこまで変化を広げるか。その歩みを追いたい。

【取材/執筆:Y.U】
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