「捜査線上で、あなたの名前が犯人として上がっています」
もし、警察官を名乗る相手から電話でこのようにいわれれば、あなたはどう感じるでしょうか。
身に覚えがなかったとしても、不安や焦りを感じ、気が動転してしまう人は少なくないでしょう。
実は、こうした電話は、近年多発している特殊詐欺の手口の1つなのです。
実際に、30代の筆者のもとにかかってきた電話の内容を紹介します。
突然「あなたは犯人」と伝えられた筆者 その電話の内容が…
2025年夏の某日、筆者は取材のため、とある施設を訪問していました。
取材が始まる約10分前、準備をしている途中にスマホが鳴ったのです。

※写真はイメージ 撮影:grape編集部
電話番号を確認する間もなく応答すると、相手は開口一番、こう名乗りました。
「初めまして。島根県警のワダと申します」
島根県は、筆者が住んでいる地域とは無縁ですが、偶然にも数か月前に旅行で訪れていました。
「はて、落とし物でもしていたのだろうか…?」と思ったのもつかの間。次の言葉に耳を疑います。
「特殊詐欺事件で捕まえた犯人が持っていた、あなた名義のキャッシュカードが、犯罪集団の『マネーロンダリング』に使われていました。あなたも『マネーロンダリング』の共犯として、名前が上がっています」
『マネーロンダリング』とは、麻薬取引や脱税などの犯罪で得た資金を、偽造口座や他人の口座を経由させることで、本来の出どころを分からなくする行為を指します。
警察官を名乗る相手いわく、筆者は犯罪グループの一員ということになっているようです…。

※写真はイメージ 撮影:grape編集部
「いやいや、意味が分かりませんよ。
戸惑っているうちに取材時間が迫ってきたため、相手に「ひとまず後でかけ直します」と伝えると、『警察庁』に再度電話をするように指定されました。
電話を切った後、スマホの画面で相手の電話番号を確認すると…。

撮影:grape編集部
『+1』の表記が…!
何を隠そう、これは、アメリカやカナダといった北米地域で使われる国際電話番号です。島根県警の電話番号のはずがありません。
国際電話番号は、発信元を偽装する際によく利用されるため、「これは詐欺に違いない」と確信しました。
警察庁への取材で判明した特殊詐欺の手口が…
もし電話を続けていれば、どのような展開が考えられたのでしょうか。grapeが警察庁を取材すると、次のような回答がありました。
『LINE』などのSNSアプリに移行させられていたかもしれません。
警察官をかたる人とビデオ通話を行った後、警察手帳や逮捕状の画像が送信されていた可能性があります。
例えば「あなたの口座の金が犯罪に関与しているか判断する」などと言われ、現在使用している口座にあるすべての金を振り込むように求められるケースが考えられますね。
「逮捕される可能性がある」と言って不安を煽り、相手から金をだまし取る狡猾な流れですよね…。
警察手帳や逮捕状の画像を送るのは、警察官であることを信じさせるためでしょう。
島根県警の警察官を名乗った狙いについて、警察庁は「『遠方から島根に行くことは困難でしょう』と配慮するフリをして、対面を避けられるSNSでのやりとりに移行しようとしたことが考えられます」と推察。
犯人が相手に安心感を与えつつ、直接対面する機会を避けてやり取りを続けるための巧妙な手口といえます。

※写真はイメージ
そして、犯人は筆者の電話番号をどこで知っていたのでしょうか。
筆者の質問に対し、警察庁は思いもよらない事実を明かしました。
暴力団や『匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)』が特殊詐欺のターゲットを選定するために、氏名や住所などの個人情報の名簿を用いている状況がうかがえます。
こうした犯罪組織に名簿を提供する悪質な業者なども確認されています。
なんと、筆者の電話番号が、知らないうちに悪質な業者に流出し、犯罪グループの『架電リスト』に載っていた可能性が高いというのです…!

※写真はイメージ
たびたび、一瞬で切られる非通知の電話が深夜にかかってきていたのですが「悪質業者が、電話番号が使用されているかを確認していたのかもしれない…」と思い、ゾッとしました。
警察庁は「本物の警察官は、電話で『捜査対象となっている』などと伝えることも、メッセージアプリで連絡を取ることもない。怪しいと思った時は、最寄りの警察署や警察相談専用電話『#9110』に連絡を」と呼びかけます。
筆者は、警察官を名乗る相手からの電話で冷静さを失った体験を通じ、特殊詐欺は決して他人事ではないと痛感しました。
見知らぬ番号からかかってくる電話には用心し、少しでも不安を覚えたら応答せず、警察に相談するようにしましょう。
[文・構成・取材/grape編集部]