映画「嵐を呼ぶ男」は、石原裕次郎の代表作として知られるが、1957年公開のオリジナル版に続き、1966年と1983年にもリメイクされ、それぞれ渡哲也と近藤真彦が主演している。中でも渡が主人公を演じた1966年版は、日活のニュースターとしての渡哲也の人気を決定的なものとした重要な作品だ。
⒞日活
■ドラマーとしてスターダムにのし上がる主人公を渡が熱演
色とりどりのネオンが眩い大東京の歓楽街。荒削りながらも才能豊かなドラマー・国分正一(渡哲也)は、場末の店で腕前を披露していたが、日々ケンカを繰り返す乱暴者なのが玉に瑕。そんな正一が人気ジャズバンドの敏腕マネージャー・福島美弥(芦川いづみ)に見込まれ、バンドのスターだったドラマー・チャーリー桜田(山田信二)の代役を務める。
チャンスをつかんだ正一の人気は急上昇し、チャーリーはバンドを去り、ライバル事務所の持永(藤岡重慶)と手を組む。父親のいない正一は、弟の大学生・英次(藤竜也)を可愛がり、レーサーを目指す弟の夢を応援していた。しかし、母の貞子(山岡久乃)は英次だけを溺愛し、正一に辛く当たる。一方、美弥に執心する実業家・左京(内田稔)に対し、正一は音楽界に影響力のある彼に自分の後押しを頼む代わりに、美弥との仲を取り持つことを提案する。左京の協力でチャーリーとの「ドラム合戦」が実現するが、正一と美弥はいつしか惹かれ合うようになり、運命の歯車が狂い始める...。
音楽界のライバル関係とハードな裏事情をはじめ、親子関係や恋愛を絡めた本作のストーリーは、前作をベースにしながらもオリジナルキャラクターなどを加えて、より見どころを増している。前作よりも弟の英次の存在感が高まり、彼がレーサーを目指す設定も独自のものだ。また、英次を慕うレース仲間の亜矢(由美かおる)、彼の大学の同級生で正一に接近する女性・比佐子(太田雅子・後の梶芽衣子)といった魅力的な女性キャラも登場する。
■未完成な主人公像が、見る者の共感を呼ぶ巧みな演出
本作のポイントは、渡が主演ということで、主人公の"未完成さ"を魅力に変えている点だ。石原裕次郎が演じる正一は、場末で燻っている時から既にカリスマ性を醸しており、只者でない雰囲気を漂わせている。無言の場面でも存在感が十分で、序盤で左京と交渉するシーンなども互角に渡り合っているという印象だ。頭の登場シーンから、"スターの降臨"そのものである。その点、渡の場合は咥え煙草で演奏している冒頭で、野心はあるが"まだ何者でもない"未熟さが漂う。裕次郎のような洗練さがない分、「挑戦者の原点」を思わせて、観る者が「応援したくなる主人公」として現れる。恋愛描写にしても、2人の違いが際立つ。石原には、女性を包み込む余裕と色気があり、大人の男という印象。対して本作の渡は、直情的で感情をストレートに女性にぶつける。青春映画の主人公のような不器用さを見せるが、そこも感情移入がしやすい。
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中盤の山場である「ドラム合戦」では、指を怪我しながら苦悶の表情でドラム対決に挑む点は共通しているものの、石原がスター性を感じさせる演奏と歌声で魅了するのに対し、渡は全身で叩きつけるパワフルな演奏を見せる。気迫とスタミナで勝負する「闘う演奏」だ。本作は、あらゆる面で、石原裕次郎のコピーではない、渡哲也という新しいスター像を示した作品として仕上がっている。ここで重要なのは、渡の未完成さを"弱点"ではなく"魅力"に昇華させた点であり、だからこそ、観る者が共感し、応援できる主人公になりえたのだろう。
■主人公の弟役・藤竜也とヒロイン役・芦川いづみも好演
また、藤竜也の存在も本作のオリジナリティを高める要素となった。本作での渡と藤の関係は、「エネルギーの衝突」を感じさせる。渡の芝居が怒りや感情を押し出す爆発型なのに対し、藤はナイーブで感情を抑えた抑制型の演技だ。兄弟を演じる2人の対比が、渡の「衝動性」を強調し、藤の「繊細さ」を際立たせている。音楽とカーレースという違いはあるが、2人とも情熱を燃やす対象があり、エネルギーを秘めている。性質の違う青春像を鮮やかに成立させた点は、オリジナル版にない魅力だと言える。青山恭二が演じた前作の英次は、クラシック音楽に打ち込む従順な若者で、藤のような秘めたエネルギーはなかった。
ヒロイン役の芦川いづみも好演している。芦川は前作でも英次の恋人役として出演しているが、渡の激しい感情を否定せず、同時に距離感も保つ大人の女性として、絶妙なヒロイン像を表現。
1966年版「嵐を呼ぶ男」は、単なるリメイクの枠を超えて、ニュースター・渡哲也を生み出した完成度の高い一本である。前作があまりに有名なために後年での印象こそ薄くなってしまったが、見どころ十分の隠れた名作と言ってもいい。渡の荒削りな魅力を、藤と芦川が受け止めて際立たせることで成立している点も興味深い。スター誕生の物語である価値に加えて、アンサンブル演技の成功例として、映画史における重要な意味を持った作品ではないだろうか。
文=渡辺敏樹
放送情報
嵐を呼ぶ男
放送日時:2026年4月6日(月) 00:00~
チャンネル:アクションチャンネル

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