そのはじまりは1954年というから、なんと歴史は60年以上。今では世界的に知られる公道レースとなっているのが、「マカオグランプリ」です。
世界中のモータースポーツファンがこのグランプリに注目するには、ふたつの理由があります。
ひとつは「F1への登竜門」と呼ばれるF3レースが開催されること。1983年から国際格式のF3マシンによるレースがおこなわれ、各国のF3選手権の上位入賞者が集結。その戦いは「F3世界一決定戦」とも呼ばれているのです。
実際に1983年のアイルトン・セナ、1990年のミハエル・シューマッハ、1991年のデビッド・クルサード、そして2001年の佐藤琢磨などここで優勝を飾った若手ドライバーや活躍したドライバーがF1へステップアップしていった例は数知れず。
1990年は、優勝したシューマッハとミカ・ハッキネンの大バトルも有名な話で、その年のマカオグランプリF3レースの表彰台に立っていたのは、シューマッハのほかミカ・サロやエディ・アーバインなど後にF1で活躍するドライバーでした。

ふたつ目は「ギア・サーキット」と呼ばれる1周約6kmの市街地を使用したコース設定。旧市街地で道も広めの「海側」と曲がりくねった「山側」の区間に別れ、特に追い越しができないほど狭い道を駆け抜ける後者は世界有数の難関セクションとして知られています。
マカオを訪れたときは、クルマ好きならそんなマカオグランプリの市街地コースを散策してみるのがオススメ。グランプリがおこなわれるのは毎年11月の第3週ですが、それ以外の時期でもコース周辺ではグランプリの息吹を感じることができるのです。
今回は、山側区間を中心としたコースの見どころを紹介しましょう。
1:エスケープゾーンのない狭い道常設サーキットにはコーナーの内側と外側に「エスケープゾーン」と呼ばれるコースアウトした際の「避難帯」が用意されています。
しかし公道を封鎖されて行われるマカオグランプリのコースには、そんなものが存在しません。つまり、コースアウトは即クラッシュを意味し、とても危険なのです。マカオグランプリのコース脇を歩いてみると、その凄さがよくわかります。


そんな危険なコースにも関わらず、コース上にはブラックマーク(タイヤを限界まで使った痕跡)が散見されます。

なかにはコーナーの前で速い速度から急減速したことを意味するとんでもなく長いものや、外側の壁ギリギリまで寄せているブラックマークも。ミスが即クラッシュにつながるきわめて狭いコースでここまで攻めるなんて、ドライバーは一体どれだけ肝が据わっているんでしょうか。

公道レースといってもレースが開催されるのは年に4日間のみ。ほかの日はもちろん一般道として使われているのですが、金網こそ撤去されるもののガードレールなどは常にレース時そのまま。
「警告色」と呼ばれる、黄色と黒のストライプのガードレールの脇にパーキングスペースがあって路上駐車している様子はまさに日常と非日常の融合。そんな路上駐車の脇の路上には長い長いブラックマークがあるのもまた不思議な光景ですね。



市街地公道コースの醍醐味は、日常の場所をレーシングカーが疾走すること。当然道の脇には民家だって建っているわけで、レース期間は軒下すれすれをレーシングカーがものすごいスピードで駆け抜けていくわけです。

普通のサーキットには絶対にありえないものを発見。なんと、スピードカメラ(オービス)です。
スピード違反厳禁の一般公道と考えれば珍しくはないのですが、グランプリコースにあるのはなんとも希少。もちろんレース開催時は機能を停止するのでしょうが、その下をレーシングカーが猛スピードで駆け抜けるシーンは想像するだけでもなんだかシュールですね。

クルマやレースに興味のある人なら、マカオグランプリには“とんでもなくきついヘアピン”があることを知っているかもしれません。それがこの「メルコヘアピン」。
あまりにも曲がり込んでいるゆえに、レースの際はこの周辺は追い越し禁止。時には曲がり切れないマシンもあるほどです(レーシングカーは市販車に比べてタイヤが曲がらないのです)。

そんなメルコヘアピン。レースではない時は一体どうなっているのかを見るのもマカオ散策の楽しみ。
グランプリ開催時に比べると道が広いように感じますが、理由はガードレールやフェンスが撤去されているから。それにしても、こんなに高低差がある場所をレーシングカーが走り抜けることにびっくりです。

クルマ好きがマカオを訪れたら、必ず訪れたいのが「グランプリ博物館」。旧市街地にあり、入場料無料でマカオグランプリにちなんだ展示を見ることができる場所です。
見逃せないのは、マカオグランプリで優勝を飾ったF3マシンでしょう。1983年にアイルトン・セナがドライブしたラルトRT3・トヨタ、1990年にミハエル・シューマッハがドライブしたレイナード903・VW、そして2001年に佐藤琢磨が乗ったダラーラF301・無限ホンダはじっくりとチェックしておきたいですね。そのほかにもマカオグランプリを盛り上げたツーリングカーやバイクなども展示されています。

そんなマカオグランプリのコースは歩いて回るのも楽しいですが、なにせ1周が約6キロもあるのですべて回るとそれなりの時間がかかるし何より疲れます。

そこでお勧めなのが、タクシーでコースを1周まわってもらうこと。グランプリのスピード感はないとはいえ、雰囲気は十分楽しめるし、ドライバー目線からコースを見ることで「こんな場所を全開で走るの?」という驚きが一層高まることでしょう。
(くぼき ひろこ)
協力:マカオ観光局
*ヒロミ / PIXTA(ピクスタ)