岡山県犬島に、自然と調和する軽やかな構造を持つ新たなパビリオン「HANA(ハナ)」が誕生。設計は世界的建築家・妹島和世氏、寄贈元はイタリアの名門ブランドPRADAだ。

舞台は、自然との共生をテーマにした「犬島 くらしの植物園」。このパビリオンは、島の時間や空気をより深く味わうための「装置」となる。夏のひとときに訪れたい、新しい目的地だ。

岡山・犬島 くらしの植物園|建築家の妹島和世氏が手がけた新た...の画像はこちら >>

島の呼吸に寄り添う「HANA」という建築

「犬島 くらしの植物園」は、2016年より建築家・妹島和世氏とガーデンデザインユニット「明るい部屋」が手がけてきたプロジェクト。使われなくなったガラスハウスなどを再生し、島の自然や文化と融合させた体験型植物園だ。訪れる人々がワークショップを通じて島民の方々と関わり、自然や植物について学ぶことができる。

そこに新たに加わったのが、PRADAの寄贈によって建てられたパビリオン「HANA」。厚さわずか3mmのステンレスを曲げて加工し、船で運び、犬島で溶接・研磨して完成させた建築は、花のかたちを思わせる2つの構造体で構成され、まるで植物園の一部のようにそっと佇む。周囲の木々や空を映す鈍い鏡面仕上げが、時間の移ろいまでも表現する。

岡山・犬島 くらしの植物園|建築家の妹島和世氏が手がけた新たなパビリオン「HANA」を公開

イベントや集会の場として設計されているが、それ以上にこの空間は「自然の一部としての建築」という思想を具現化した作品として、そっと風景に溶け込み、訪れる者の感性に静かに訴えかける。

建築と文化を結ぶプロジェクトの連なり

プロジェクトの背景には、妹島氏が長年にわたり福武財団と取り組んできた犬島での活動と、PRADAが持つ文化支援への意志がある。現代建築と自然、地域コミュニティの共創という意味深い試みへの共感によって、今回の寄贈が実現した。

建築の背後にあるのは、都市の速度とは異なる「島時間」に寄り添いながら文化を育てるという姿勢。長期的な信頼と対話の積み重ねがある。

アートの犬島を訪れる理由がまたひとつ

「HANA」が加わったことで、犬島の魅力はさらに厚みを増した。2010年に公開された「家プロジェクト」と並び、植物園とこのパビリオンが新たな目的地として存在感を放っている。

岡山・犬島 くらしの植物園|建築家の妹島和世氏が手がけた新たなパビリオン「HANA」を公開

従来の観光地とは一線を画し、手つかずの自然と現代建築が共存する犬島は、喧騒を離れた「余白」のような場所。ひとり静かに歩き、風を感じ、建築の佇まいに思索を巡らせる。そんな時間が、成熟した大人の旅にふさわしい豊かさをもたらす。

次の週末、ほんの少し足を延ばして、その静けさと建築の響きを感じてみてはどうだろうか。

犬島 くらしの植物園「HANA」
所在地:岡山県岡山市東区犬島50
開館時間:10:00~16:30
休園日:火曜日~木曜日(3月1日~11月30日)/全日(12月1日~2月末日)
鑑賞料金:無料*
施設URL:https://benesse-artsite.jp/art/lifegarden.html

PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000060825.html

(Fumiya Maki)

撮影:川越 健太

*島精錬所美術館と犬島「家プロジェクト」は共通チケットオンライン購入2,100円/窓口購入2,300円
※休園日が祝日の場合は開館
※不定休あり

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