京都の新しい形のアートスペースBnA Alter Museumにて、10月18日(土)から翌年5月10日(日)まで展覧会「貝をぬける」が開催される。
日本図案館、船川翔司、本山ゆかりの3組による展示は、館内の階段型ギャラリーSCGを舞台に、作品と鑑賞者の境界を揺さぶり、時間と空間を超えた新たな視点を得られるだろう。
境界を問い直す展示空間
展示「貝をぬける」は、ものを見るという行為そのものを改めて考察させる展覧会だ。本展で語られる「貝」とは、内と外を隔てる殻を持つ存在であり、鑑賞者が作品を通じて世界との関わりを再構築する契機を象徴している。
会場となるBnA Alter MuseumのSCG(Stairscase Gallery)は、10階まで続く非常階段に沿って設けられた螺旋状の展示空間。鑑賞者は巻貝を歩むように上り下りしながら作品に触れる。作品の連続が生み出す体験は、フラクタル状に増殖する「貝」のイメージを体現し、観る者に内外を往還する感覚を与える。

こうした独自の展示形式は、1881年(明治14)に構想され未完に終わった高橋由一の「螺旋展画閣」を想起させ、過去の夢想と現代の表現が重なり合う瞬間を演出する。
参加する三組の作家たち
出展作家のひとつ、博物施設「日本図案館」は明治期の図案革新文化を軸に、木版画の図案集や江戸から昭和初期にかけての資料を収蔵・展示する場である。図案に込められた美意識や色彩感覚は、現代においても普遍的な価値を放ち、伝統と現代性を繋ぐ鍵となる。

日本図案館所蔵品より平瀬與一郎「貝千種 二」/木版画/大正4年(1915年)/芸艸堂
「船川翔司」は、光や気象といった自然現象とテクノロジーを交差させ、人工と自然の境界を融解する作品を展開する。観る者の知覚を拡張し、世界の潜在的な可能性を浮かび上がらせる表現は、現代アートの先端を感じさせる。

船川翔司「Weather twin」/インスタレーション/2023年
「本山ゆかり」は、絵画をつくる、あるいは鑑賞する過程で生じる事象を解体し、それぞれの要素を新たな仕組みの中で提示する。要素ごとに焦点を当てる彼女の作品は、絵画そのものを問い直す実験性を持ち、観る者に意識の転換を迫る。
三者三様のアプローチが同一の空間に集まることで、展覧会は時間軸と感覚の層を重ね合わせ、複雑で豊かな体験を提供する。

本山ゆかり「Ghost in the Cloth(5枚の羽根)」/布、綿、糸/2024年
京都で得られる非日常の時間
「貝をぬける」は、単なる作品鑑賞の枠を超え、歴史的な多義性と現代の感覚を往還させる稀有な場となる。

日常の枠を超えた体験を求める人々にとって、この展覧会は視覚だけでなく精神の奥行きを揺さぶる貴重な機会となるだろう。
貝をぬける Through Shells
会期:2025年10月18日(土)~2026年5月10日(日)11:00-20:00
会場:BnA Alter Museum SCG
所在地:京都府京都市下京区天満町267-1
入場料:一般1,000円
公式サイト:https://bnaaltermuseum.com/exhibition/through-shells/
PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000063793.html
(Fumiya Maki)