(公式ツイッターの宣材写真から引用 イラストby龍女)
取り上げたのは大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で主人公の北条義時(1163~1224)の三番目の妻のえこと、歴史上では伊賀の方(生没年不詳)で、9月4日放送の第34回から登場したからである。

(第26話の小栗旬演じる北条義時。 イラストby龍女)
第34回を観て、のえ(菊地凛子)はまるで第1回目から登場している義時の父時政の後妻りく(宮沢りえ)にそっくりの野心を隠している女性に見えた。
義時の肩に落ちた紅葉を取ってさりげなくボディタッチ。
更にメロメロにさせたのが、キノコをプレゼントしたら、すぐにはしゃいで好きそうなリアクション。
この時だけ、初心だった頃の義時の雰囲気に戻って
「おいおい、そこ学習してないんかい!」
と観ながらツッコまずにはいられなかった。

(最初の頃の小栗旬演じる北条義時。 イラストby龍女)
今回のラストで、継子の泰時(坂口健太郎)に、本当はキノコが嫌いだという裏の顔を見られてしまう。
ということで、これまでも可愛いけど嫌な女を演じてきた菊地凛子の経歴を振り返っていきたい。
オスカー候補作や大ヒットハリウッド作品のヒロイン役など、独立系もメジャーでも成功しているように見えるが一方で挫折もある。
実は時代劇は鬼門で、2度大きな失敗の経験をしている。
菊地凛子は特技に日本舞踊を挙げている程、時代劇には意欲的なのだが、今回は三度目の正直なるか?
というお話である。
菊地凛子は1996年にラフォーレ原宿でスカウトされて芸能界入りしている。
キャリアの最初はモデルで、今もそちらの活動も継続中だ。

(2009年特別招待作品『サイドウェイズ』で出席した東京国際映画祭にて イラストby龍女)
筆者が最近観た出演CMは、30代40代女性向けのルミネ関連のショッピングモールNEWoMANのイメージキャラクターだ。
映画デビュー作は『生きたい』(1999年)である。
監督は新藤兼人(1912~2012)で、約370本も書いた名脚本家でもある。
中でも脚本を担当した『ハチ公物語』(1987年)はハリウッドでもリメイク(『HACHI 約束の犬』2009年)されている
日本を代表する独立系映画の先駆者だ。
脚本料を、自分の会社の近代映画協会の資金にまわして最晩年まで監督作品を作り続けてきた。
この経験は菊地凛子のキャリアに大きな影響を与えているかもしれない。
インタビューでは、尊敬する映画人としてアメリカの独立系の先駆者ジョン・カサベテス(1929~1989)とジーナ・ローランズ(1930年6月19日生れ)夫妻を挙げている。
おそらくその頃に彼らの存在を教わった可能性もあると、筆者は観ている。
メジャーから独立系問わず、好きな脚本の作品なら積極的に自分からオーディションを受ける態度は凄い。
名前が一般的に有名になったのは、2006年の『バベル』での聾唖の女子高生・綿谷千恵子を演じたら、第79回アカデミー助演女優賞をはじめとする各映画賞にノミネートされたからだろう。
それまでも日本国内でも活動していたが、芸能マスコミ的には無名の存在だったので驚きを持って迎えられたのは言うまでもあるまい。

(『バベル』の綿矢千恵子 イラストby龍女)
筆者が菊地凛子の出演作で初めて認識したのは川原泉の漫画の実写化『笑う大天使』(2006)だ。
主人公の司城史緒(上野樹里)の兄一臣(伊勢谷友介)のお見合い相手である桜井敦子を演じた。
日本映画で主役級の役で出たのが、三木聡監督の『図鑑に載っていない虫』(2007年6月23日)だ。
再び伊勢谷友介(1976年5月29日生れ)と共演した作品で、彼が主役である。
ブラックユーモア満載の作品で、菊地凛子の役柄はリストカット経験者のSM嬢サヨコというヤバさである。

(三木聡監督 イラストby龍女)
同じ2007年の8月18日に公開された新垣結衣主演の『恋するマドリ』では、主人公が憧れる一級建築士の順田温子を演じている。
2007年は飛躍の年で、モデルとしても11月にシャネルのクルーズ・コレクション広告に選ばれ、順風満帆に見えたところで好事魔多し。
12月18日、松山ケンイチ主演『カムイ外伝』(公開は2009年10月31日)の撮影中に両足の大腿筋に肉離れを起こし、全治2か月の怪我を負った。
撮影が延期されたが、トレーニングが出来なくなったので、やむなく降板した。
代役として『ラストサムライ』や『嗤う伊右衛門』で時代劇の経験があった小雪が出演した。
菊地凛子の降板によって、松山ケンイチと小雪のビッグカップルの誕生を生んだ。
松山ケンイチとの共演は公式では村上春樹原作のベストセラーの映画化『ノルウェイの森』(2010年12月11日公開)まで延びることになった。
『カムイ伝』での失敗とは、菊地凛子には運動神経に自信があったということだろう。
運動できる人ほど怪我をしやすいリスクがある。
このトラブルの影響だけとは限らないが、映画『カムイ伝』は興行的にも評価も失敗作とされている。
日本映画の時代劇で『たそがれ清兵衛』(2002年)の大成功(日本アカデミー賞主要部門独占アカデミー賞外国語映画候補)以来、藤沢周平原作の映画化ブームが起こった。
2011年に公開された『小川の辺』は東山紀之主演で、菊地凛子は妹役で片岡愛之助の妻を演じた。
公式にはこれが初めての時代劇映画出演作に当たる。
時期的に藤沢周平の映画化ブームの終焉を迎えていたのが痛かった。
筆者もTVで観た記憶があるが、あまり面白かった印象がない。
藤沢周平作品あるある「上司の命令で親しい人と戦わなければならない」がそろそろ飽きられていたのではないか?
2013年のロボットと怪獣が戦うSF大作『パシフィック・リム』の森マコ役は大成功だった。
これは、『バベル』に出演したとき、監督アレハンドロ・イニャリトゥと同じメキシコ出身の監督ギレルモ・デル・トロと知り合った事がきっかけだ。
イニャリトゥはシリアス路線の監督だが、デル・トロは生粋のヲタクだ。
日本のアニメ・特撮文化の要素を上手く詰め込んだ『パシフィック・リム』の企画に参加した。
この役は典型的なロボットアニメのヒロインで、声優経験(『スカイ・クロラ』2008年)もある菊地凛子にはあっていた。

(『パシフィック・リム』の森マコ イラストby龍女)
この次に公開されたのが、ハリウッドで忠臣蔵の映画化企画である。
主演のキアヌ・リーブス以外はすべて日本人キャストの『47RONIN』である。
大石内蔵助役が真田広之、大石主税役が赤西仁、吉良上野介役が浅野忠信、浅野内匠頭が田中みん(氵に民)、菊地凛子が謎の妖女ミヅキである。
これは忠臣蔵を伝奇小説(日本製ファンタジー)の世界観で映画化を試みたモノである。
菊地凛子が演じたのは、いわばファンタジー小説に出てくる魔女や魔王にあたる役柄だ。
筆者がこの手のキャラクターで思い出すのは真田広之が主演した『里見八犬伝』(1983年)の玉梓(夏木マリ)である。
夏木マリは後に『千と千尋の神隠し』の湯婆婆を演じられたのも、この悪役が当たり役として日本アカデミー賞の優秀助演女優賞になり、業界に知れ渡ったからだ。

(映画『里見八犬伝』の玉梓。 イラストby龍女)
監督のカール・リンシュを始めとする製作陣は、おそらく忠臣蔵を南総里見八犬伝のように史実からファンタジーを生み出そうとしていた。
この映画は失敗が多すぎてツッコミどころ満載なのだが、菊地凛子に関してだけ言及すると、製作陣の配役ミスだ。
彼女は数々ヒロインを演じてきたが、妖艶なキャラはあっていない。
菊池凛子自身は高い声に魅力がある。
魔女役が似合う俳優は地声の低さに魅力がある人が多いからだ。
これまで菊地凛子が失敗してきた時代劇の役柄はすでに前例が数多く存在した為、それと比べると力不足は否めなかったのだと考えられる。
『鎌倉殿の13人』は1979年の大河ドラマ『草燃える』を下敷きにしているが、調べてみると伊賀の方は登場していなかったようだ。
ほぼ前例のない歴史上の人物なので、自由に演じた方が菊地凛子にはあっているような気がする。
まず初登場回の印象は彼女の個性にぴったりであった。
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