風邪などをひいたときにマスクをしてウイルスをまき散らさないというエチケットを守る人は多いと思います。しかし、マスクはエチケットですから、しなくても法律に触れるものではありません。

では、風邪をひいたときに、他人に向かってわざと咳をしたら何かの犯罪になると思いますか?

●暴行罪になるかもしれない
実は風邪をひいていなくても、他人の顔のそばでわざと咳をすることは刑法の暴行罪(2年以下の懲役、30万円以下の罰金など)になります。風邪をひいていても同じく暴行罪です。
仮に咳をされたことにより被害者が実際に風邪をひくと傷害罪(15年以下の懲役、50万円以下の罰金)になります。しかし、風邪の原因は様々ですから咳と風邪の因果関係を証明することはほぼ不可能だと思います。
わざとではなく、間違って、人の顔のそばで咳が出てしまったとしても、違法ではありません。過失による暴行を処罰する法律はありませんから。

一般の方が、病原体自体を所持したりすることはまずないでしょうが、医療関係者が研究用に所持することはあります。

そのような医療関係者が病原体をわざとまき散らすと上記の暴行罪になります。
特殊な病原体であれば、まき散らし行為と病原体の罹患の因果関係の証明は簡単です。発症した被害者がいれば、傷害罪になります。
医療関係者が間違って病原体をまき散らしてしまった時、実際に罹患した人がいれば、業務上過失致死傷罪(5年以下の懲役、100万円以下の罰金)になります。しかし、罹患した人がいなければ犯罪になりません。

以上は、毒性の弱い病原体の話です。

●毒性の強い病原体の場合
エボラ出血熱など、生物テロに使われるような毒性の強い病原体については、感染症法という法律が2007年から施行されています。
生物テロに使用されるおそれのある病原体等であって、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがある感染症の病原体等の管理の強化のため、一種病原体等から四種病原体等までを特定しその分類に応じて、所持や輸入の禁止、許可、届出、基準の遵守等の規制が設けられています。
詳しくは、下記のホームページを参照して下さい。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/03.html
従って、法律の定める厳格な管理をせずに、間違って病原体をまき散らすと感染症法違反となります。この法律の違反者には無期懲役まで定められています。


*著者:弁護士 星正秀(星法律事務所。離婚、相続などの家事事件や不動産、貸金などの一般的な民事事件を中心に、刑事事件や会社の顧問などもこなす。)