※この記事にストーリーのネタバレはありません。未プレイの方も安心してお付き合いください。
『ディスガイア』シリーズなどの代表作をはじめ、多彩なソフトを幅広く展開している日本一ソフトウェア。多くのシリーズ展開を手がける一方で、新規IPの創出にもかなり力を入れており、個性的なタイトルを毎年いくつも手がけています。
そんな同社らしい取り組みのひとつとして、「日本一ソフトウェア 企画祭」と呼ばれている社内コンペがあります。部署や職歴などの制限がなく、社内の人間であれば誰でも企画を出すことができるため、これまでにないアイディアが登場することもしばしば。『htoL#NiQ-ホタルノニッキ-』や『夜廻』といった作品が、この企画祭から生まれました。
先日発売されたばかりの『嘘つき姫と盲目王子』も、企画祭から飛び出した一作。今年の1月に発表された本作は、「お姫様に化けた化物」と「目の見えない王子」の異種間交流をテーマとした、切ない恋を描く物語として紹介され、多くのゲームファンから注目を集めました。
筆者も、発表直後からずっと『嘘つき姫と盲目王子』が気になっており、発売後は本作の特徴的な世界観をたっぷりと堪能させていただきました。そこで今回は、発表からエンディングまでを見届けたひとりのユーザーとして、本作のプレイレポをお届けしたいと思います。
◆想像力を刺激するテーマと、それを雄弁に表現する見事な世界観
本作の主人公は、人食いの化け物である「狼」。我々の世界にいる狼とは全く異なっており、畏怖すら覚える外見と、その見た目に違わぬ凶暴な力を秘めた存在です。そんな狼ですが、非常に美しい歌声を持っており、その歌声に惹かれた「王子」と出会ったことで、本作の物語は動き始めます。
歌声への賞賛として贈られる王子の拍手は、狼の耳と心にしっかりと届き、人食いの化け物でありながらも王子を食べる気を失わせてしまうほど。ですが同時に、化け物だと気付かれたら嫌われてしまうとも考え、姿を見られることを恐れます。
そんな狼の心境を知らない王子は、ある日勇気を出して狼へと近づいてしまいます。その突然の行動に慌てた狼は、王子の視界を塞ごうと顔に手を伸ばしました。しかしその手についた爪は、王子の目を引き裂いてしまい、彼から光を奪ってしまうことに。
王子の目を治すには、森の魔女に助けてもらうしかない。そう考えた狼は、美しい歌声と引き換えに、可愛らしい人間=姫の姿を手に入れました。こうして、誰かを傷つける爪ではなく、魔女の元まで連れていける柔らかな手を差し出して、王子と共に深い森へと旅立ちます。
・・・と、ここまでが本作の幕開けに当たります。互いに惹かれ合いながらも、嘘を抱えて姫と偽る狼と、真実を知らぬ無垢な王子。この二人がどんな結末に辿り着くのか、気にならないわけがありません! 本作のジャンルは、パズル要素が濃いアクションゲームですが、筆者の購入動機は物語とその結末を見届けることがほぼ全て。その満足度については後ほど改めて語りますが、まずプレイして魅了されたのは、この興味深いテーマや世界観をしっかりと支えるグラフィック表現でした。
事前に公開された画像や映像は、まるで絵本の世界を思わせるようなテイストに溢れており、発売前からそのビジュアルセンスに惹かれていましたが、実際にゲームプレイを通してみると、その深みのある味わいをより強く感じさせられます。
柔らかさと暖かみを覚えるビジュアルで展開する物語は、新たな感情に戸惑う狼の心境や、些細なことに喜ぶ感情の動きを雄弁に表現。更に、世界観やキャラクターにマッチした演出が散りばめられており、一見美しくも死と隣り合わせの危険な森を進む、嘘を秘めた狼と王子の冒険に、グイグイと引き込まれてしまいます。
ビジュアルの素晴らしさは、野暮な言葉で語るよりも、ゲーム映像や画像を見ていただければ一目瞭然かと思います。その上で、今回のプレイを通してグラフィック面で伝えたいことは、ゲームの端々までこのセンスが徹底されており、エンディングを迎えるまでこの世界が一貫して魅力的であり続けたこと。この世界から“覚める”ことはなく、最後までしっかりと浸らせてくれたと明言させていただきます。
絵作りが素晴らしいのはもちろんですが、それを支える演出や音楽も優れており、見とれたり聞き惚れたりすることもしばしば。例えば、ささやかな演出ですが、姫バージョンの狼や王子は、通常時には普通の顔をしていますが、二人が手を繋ぐと口角が上がり嬉しそうな表情に変わります。アクション性のあるゲームなので画面上では決して大きな変化ではありませんが、だからこそ「あ、笑ってる!」と気付いた時の嬉しさも倍増。この二人の気持ちが、手を繋ぐアクションのボタンから伝わってくれるようで、こちらもなんだか嬉しくなりました。
プレイが進むと、王子にお願いする形でアクションの幅が広がりますが、手を繋いでいる時だと姫が王子の耳に囁きかけます。そんな姫もキュートですし、目が見えないのに姫の言葉を信頼して歩き出す王子も健気! 高いところから落ちて転んだ二人のアクションも可愛く、ゴメンと思いつつ目が離せません。
魅力溢れる世界観を豊かに表現するビジュアル、物語と冒険を盛り上げる優れたBGM、一貫して作品を支える演出の数々。絵本のような世界は、しかしゲームならではの味わいで、その物語を素晴らしく表現していました。
ゲームならではの表現で引き込む『嘘つき姫と盲目王子』。しかし、ゲームだからこその難点も・・・?
◆逆の意味で「人を選ぶ難易度」を用意した『嘘つき姫と盲目王子』
ゲームの内容を伝える際に、「人を選ぶ難易度」という言い回しがよく使われます。これは、「面白いけども歯応えがあり、そのジャンルに慣れていないと手こずるかも」みたいな意味合いがほとんど。ですが本作に関しては、まったく反対の意味で「人を選ぶ難易度」となっています。
単独では動けない王子をゴールに導くため、狼は姫の姿になって手を引かなければなりません。段差がある時は一緒にジャンプ。途中からは単独で歩いてもらうこともできますが、その距離が限られているため、基本は姫が連れて歩く形となります。
しかし姫のままでは、森に巣くう魔物に太刀打ちできず、王子だけでなく姫状態の狼もやられてしまうので、そんな時は狼に変化。狼状態だとステージに登場する魔物を圧倒でき、恐いのは落下による死と王子がやられてしまうことくらい。ですが狼状態では、王子を動かす術が無く、この切り替えがゲーム性のキモとなります。
時には王子のそばを離れ、ギミックを作動させるタイミングで王子を声で誘導するなど、シチュエーションを活かした仕掛けが待ち受けています。が、その難易度は全体的に緩やかで、パズル性についてはちょっと考えれば答えが見つかるものがほとんど。アクションによるタイミングもシビアさはなく、「何度やっても超えられない!」といった厳しい仕掛けはありません。
また、リトライがしやすいのも大きな利点。王子や姫がやられてしまう姿を見るのは辛いものの、ほぼロードなしで再開可能。しかも、さほど戻されることもないので、トライ&エラーが手軽に行えます。相当アクションが苦手な人でない限り、あまり躓くことなく進めるはず。
さらに本作は、ステージをスキップできる機能も搭載! よほどのことがない限りクリアできる難易度ですが、ごく一部の例外といえる「よほどのこと」に当てはまった場合も、スキップすることで先に進むことができるので、まさしく文字通りの意味で“誰でもクリアできる”といった印象です。
詰まってしまうとそのまま投げ出してしまうこともありますが、その懸念は本作においてはまったくの無用。その反面、ハードなゲームに慣れているユーザーにとっては、少々物足りない難易度かもしれません。この点について賛否が分かれると思いますが、筆者の個人的な感想としては、本作の世界観と手強い難易度は相性があまりよくないように感じています。
難易度が上がれば、自ずと足止めされることが増え、プレイ全体のテンポはどうしても下がってしまうもの。
まったくの無策では進めず、しかしちょっとの閃きとアクション性で緩急が付き、時折迎えてしまう失敗に心を痛めつつ、ステージをクリアすると物語が展開。モチベーションとハードル、そしてストーリー進行がそれぞれ適切なバランスを保っており、エンディングを迎えるまで心地よくプレイすることができました。
難易度が上がれば歯応えは増しますが、ゲームプレイを重くする手法が『嘘つき姫と盲目王子』とマッチするようには思えません。難しくしてもスキップ機能があるから問題ない、と考えることもできますが、スキップはあくまで救済手段。また、「手応えを増やそう難易度を上げた結果、スキップの多用によって手応えが減る」という残念な形になりかねません。
一般的な使用とは真逆の意味で「人を選ぶ難易度」を選択した『嘘つき姫と盲目王子』。人によって合う、合わないがきっぱりと分かれてしまう点ではありますが、本作の世界観を踏まえたレベルデザインとしては適切と言えるでしょう。
物語も表現も魅力的な『嘘つき姫と盲目王子』。しかし、最も賛否が分かれそうなポイントが・・・。
◆クリア時間とプレイ体験から辿る『嘘つき姫と盲目王子』の本質と魅力
絵本のような世界を、丁寧な物語と演出で描く『嘘つき姫と盲目王子』。ですが、本作で最も賛否が分かれそうな点がひとつあります。
細かく記してしまうとネタバレとなるので伏せておきますが、本作の物語は、導入時に示された「嘘」や「狼と王子の関係」などが軸となっており、その結末までを紡ぐものとなります。そのため、他のゲームで見られる「世界の命運を懸けた壮大なストーリー」などと比べれば、物理的な分量はどうしても少なめに。また、間口の広いアクションパズルが故に詰まる部分も少なく、各ステージもテンポよくクリアできます。
あくまで筆者の一例ですが、エンディングを迎えるまでのプレイ時間は、ずばり「4時間32分」。ゲームに自信がある方はもっと早いと思いますし、ゲームの操作が苦手な人だともう少しかかるかもしれませんが、極端な差はつかないでしょう。
ちなみに『嘘つき姫と盲目王子』の価格は、税抜きで5,980円~6,980円。標準的なフルプライスの価格帯です。もちろんジャンルにもよりますが、ボリュームを求める方にとってはコストパフォーマンスがいいとは言えず、人によっては本作の難点と捉えても不思議はありません。
ですが、上記のプレイ時間でクリアした筆者個人のプレイ満足度は、非常に高いものだったと明言しておきます。絶妙なバランスの上に、ゲームプレイと物語が織り込まれたひとときは、2人の行く末への興味と相まって、満ち足りたプレイ体験を味わうことができました。
確かに数十時間遊ぶようなゲームと比べたら、あっという間に終わってしまいます。しかし振り返ってみると、ゲームプレイに関する思い出の大きさは、それほど違いがないことにも気付かされます。本作について伝えたいアレコレは他のゲームと比べてもなんら遜色なく、雄弁に語りたい言葉の数々はしっかりと自分の中にありました。それは、短くとも良質なプレイ体験を味わえたことが要因だと考えています。
この記事の中で、幾度か「絵本のような」という言い回しで本作を表現しましたが、価格やボリュームの面を踏まえて語るならば、本作は「しかけ絵本のようなゲーム」だったのかもしれません。切ない「嘘」を抱えた狼と、残酷な現実を知らぬ無垢な王子の旅は、ページをめくるようにボタンを押すことで展開し、様々な形を見せてプレイヤーを刺激します。
ビジュアルと音楽、ゲーム性に驚かされ、狼がついた「嘘」の顛末に息を飲み、2人がそれぞれ導き出した答えに心を動かされる。そんな“仕掛け”に一喜一憂したひとときは、「しかけ絵本」を楽しむ気持ちに似ていかもしれません。
普通の絵本と比べると少々お高い「しかけ絵本」ですが、その価値をも上回る驚きと刺激を与えてくれることもしばしばあります。そんな「しかけ絵本」と通じるような魅力を、『嘘つき姫と盲目王子』のプレイに感じる方ならば、ボリュームについて決して大きなマイナスとはならないと思います。
厳しくも美しい世界。没入感を後押しするBGMの数々。嘘が横たわる狼と王子の関係。異種間の超えがたい壁を描く展開。そんな「おはなし」を短くも濃く楽しみたい方には、『嘘つき姫と盲目王子』を強くお勧めします。プレイ開始から半日後にはきっと、本作について語りたくなっている自分に気付くことでしょう。
(C)2018 Nippon Ichi Software, Inc.
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『ディスガイア』シリーズなどの代表作をはじめ、多彩なソフトを幅広く展開している日本一ソフトウェア。多くのシリーズ展開を手がける一方で、新規IPの創出にもかなり力を入れており、個性的なタイトルを毎年いくつも手がけています。
そんな同社らしい取り組みのひとつとして、「日本一ソフトウェア 企画祭」と呼ばれている社内コンペがあります。部署や職歴などの制限がなく、社内の人間であれば誰でも企画を出すことができるため、これまでにないアイディアが登場することもしばしば。『htoL#NiQ-ホタルノニッキ-』や『夜廻』といった作品が、この企画祭から生まれました。
先日発売されたばかりの『嘘つき姫と盲目王子』も、企画祭から飛び出した一作。今年の1月に発表された本作は、「お姫様に化けた化物」と「目の見えない王子」の異種間交流をテーマとした、切ない恋を描く物語として紹介され、多くのゲームファンから注目を集めました。
筆者も、発表直後からずっと『嘘つき姫と盲目王子』が気になっており、発売後は本作の特徴的な世界観をたっぷりと堪能させていただきました。そこで今回は、発表からエンディングまでを見届けたひとりのユーザーとして、本作のプレイレポをお届けしたいと思います。
◆想像力を刺激するテーマと、それを雄弁に表現する見事な世界観
本作の主人公は、人食いの化け物である「狼」。我々の世界にいる狼とは全く異なっており、畏怖すら覚える外見と、その見た目に違わぬ凶暴な力を秘めた存在です。そんな狼ですが、非常に美しい歌声を持っており、その歌声に惹かれた「王子」と出会ったことで、本作の物語は動き始めます。
歌声への賞賛として贈られる王子の拍手は、狼の耳と心にしっかりと届き、人食いの化け物でありながらも王子を食べる気を失わせてしまうほど。ですが同時に、化け物だと気付かれたら嫌われてしまうとも考え、姿を見られることを恐れます。
そんな狼の心境を知らない王子は、ある日勇気を出して狼へと近づいてしまいます。その突然の行動に慌てた狼は、王子の視界を塞ごうと顔に手を伸ばしました。しかしその手についた爪は、王子の目を引き裂いてしまい、彼から光を奪ってしまうことに。
王子の目を治すには、森の魔女に助けてもらうしかない。そう考えた狼は、美しい歌声と引き換えに、可愛らしい人間=姫の姿を手に入れました。こうして、誰かを傷つける爪ではなく、魔女の元まで連れていける柔らかな手を差し出して、王子と共に深い森へと旅立ちます。
・・・と、ここまでが本作の幕開けに当たります。互いに惹かれ合いながらも、嘘を抱えて姫と偽る狼と、真実を知らぬ無垢な王子。この二人がどんな結末に辿り着くのか、気にならないわけがありません! 本作のジャンルは、パズル要素が濃いアクションゲームですが、筆者の購入動機は物語とその結末を見届けることがほぼ全て。その満足度については後ほど改めて語りますが、まずプレイして魅了されたのは、この興味深いテーマや世界観をしっかりと支えるグラフィック表現でした。
事前に公開された画像や映像は、まるで絵本の世界を思わせるようなテイストに溢れており、発売前からそのビジュアルセンスに惹かれていましたが、実際にゲームプレイを通してみると、その深みのある味わいをより強く感じさせられます。
柔らかさと暖かみを覚えるビジュアルで展開する物語は、新たな感情に戸惑う狼の心境や、些細なことに喜ぶ感情の動きを雄弁に表現。更に、世界観やキャラクターにマッチした演出が散りばめられており、一見美しくも死と隣り合わせの危険な森を進む、嘘を秘めた狼と王子の冒険に、グイグイと引き込まれてしまいます。
ビジュアルの素晴らしさは、野暮な言葉で語るよりも、ゲーム映像や画像を見ていただければ一目瞭然かと思います。その上で、今回のプレイを通してグラフィック面で伝えたいことは、ゲームの端々までこのセンスが徹底されており、エンディングを迎えるまでこの世界が一貫して魅力的であり続けたこと。この世界から“覚める”ことはなく、最後までしっかりと浸らせてくれたと明言させていただきます。
絵作りが素晴らしいのはもちろんですが、それを支える演出や音楽も優れており、見とれたり聞き惚れたりすることもしばしば。例えば、ささやかな演出ですが、姫バージョンの狼や王子は、通常時には普通の顔をしていますが、二人が手を繋ぐと口角が上がり嬉しそうな表情に変わります。アクション性のあるゲームなので画面上では決して大きな変化ではありませんが、だからこそ「あ、笑ってる!」と気付いた時の嬉しさも倍増。この二人の気持ちが、手を繋ぐアクションのボタンから伝わってくれるようで、こちらもなんだか嬉しくなりました。
プレイが進むと、王子にお願いする形でアクションの幅が広がりますが、手を繋いでいる時だと姫が王子の耳に囁きかけます。そんな姫もキュートですし、目が見えないのに姫の言葉を信頼して歩き出す王子も健気! 高いところから落ちて転んだ二人のアクションも可愛く、ゴメンと思いつつ目が離せません。
ただし、高すぎるところから落ちると死んでしまうので、やりすぎは厳禁です!
魅力溢れる世界観を豊かに表現するビジュアル、物語と冒険を盛り上げる優れたBGM、一貫して作品を支える演出の数々。絵本のような世界は、しかしゲームならではの味わいで、その物語を素晴らしく表現していました。
ゲームならではの表現で引き込む『嘘つき姫と盲目王子』。しかし、ゲームだからこその難点も・・・?
◆逆の意味で「人を選ぶ難易度」を用意した『嘘つき姫と盲目王子』
ゲームの内容を伝える際に、「人を選ぶ難易度」という言い回しがよく使われます。これは、「面白いけども歯応えがあり、そのジャンルに慣れていないと手こずるかも」みたいな意味合いがほとんど。ですが本作に関しては、まったく反対の意味で「人を選ぶ難易度」となっています。
単独では動けない王子をゴールに導くため、狼は姫の姿になって手を引かなければなりません。段差がある時は一緒にジャンプ。途中からは単独で歩いてもらうこともできますが、その距離が限られているため、基本は姫が連れて歩く形となります。
しかし姫のままでは、森に巣くう魔物に太刀打ちできず、王子だけでなく姫状態の狼もやられてしまうので、そんな時は狼に変化。狼状態だとステージに登場する魔物を圧倒でき、恐いのは落下による死と王子がやられてしまうことくらい。ですが狼状態では、王子を動かす術が無く、この切り替えがゲーム性のキモとなります。
時には王子のそばを離れ、ギミックを作動させるタイミングで王子を声で誘導するなど、シチュエーションを活かした仕掛けが待ち受けています。が、その難易度は全体的に緩やかで、パズル性についてはちょっと考えれば答えが見つかるものがほとんど。アクションによるタイミングもシビアさはなく、「何度やっても超えられない!」といった厳しい仕掛けはありません。
また、リトライがしやすいのも大きな利点。王子や姫がやられてしまう姿を見るのは辛いものの、ほぼロードなしで再開可能。しかも、さほど戻されることもないので、トライ&エラーが手軽に行えます。相当アクションが苦手な人でない限り、あまり躓くことなく進めるはず。
さらに本作は、ステージをスキップできる機能も搭載! よほどのことがない限りクリアできる難易度ですが、ごく一部の例外といえる「よほどのこと」に当てはまった場合も、スキップすることで先に進むことができるので、まさしく文字通りの意味で“誰でもクリアできる”といった印象です。
詰まってしまうとそのまま投げ出してしまうこともありますが、その懸念は本作においてはまったくの無用。その反面、ハードなゲームに慣れているユーザーにとっては、少々物足りない難易度かもしれません。この点について賛否が分かれると思いますが、筆者の個人的な感想としては、本作の世界観と手強い難易度は相性があまりよくないように感じています。
難易度が上がれば、自ずと足止めされることが増え、プレイ全体のテンポはどうしても下がってしまうもの。
「森の魔女に会いに行く」という狼と王子に焦点を当てた物語は、異種族ゆえの考え方の違いや、嘘を軸とした互いの関係などを描いており、現状の難易度とのバランスは絶妙の塩梅でした。
まったくの無策では進めず、しかしちょっとの閃きとアクション性で緩急が付き、時折迎えてしまう失敗に心を痛めつつ、ステージをクリアすると物語が展開。モチベーションとハードル、そしてストーリー進行がそれぞれ適切なバランスを保っており、エンディングを迎えるまで心地よくプレイすることができました。
難易度が上がれば歯応えは増しますが、ゲームプレイを重くする手法が『嘘つき姫と盲目王子』とマッチするようには思えません。難しくしてもスキップ機能があるから問題ない、と考えることもできますが、スキップはあくまで救済手段。また、「手応えを増やそう難易度を上げた結果、スキップの多用によって手応えが減る」という残念な形になりかねません。
一般的な使用とは真逆の意味で「人を選ぶ難易度」を選択した『嘘つき姫と盲目王子』。人によって合う、合わないがきっぱりと分かれてしまう点ではありますが、本作の世界観を踏まえたレベルデザインとしては適切と言えるでしょう。
物語も表現も魅力的な『嘘つき姫と盲目王子』。しかし、最も賛否が分かれそうなポイントが・・・。
◆クリア時間とプレイ体験から辿る『嘘つき姫と盲目王子』の本質と魅力
絵本のような世界を、丁寧な物語と演出で描く『嘘つき姫と盲目王子』。ですが、本作で最も賛否が分かれそうな点がひとつあります。
それは、前述の難易度とも無関係ではありませんが、ずばり全体的なボリュームです。
細かく記してしまうとネタバレとなるので伏せておきますが、本作の物語は、導入時に示された「嘘」や「狼と王子の関係」などが軸となっており、その結末までを紡ぐものとなります。そのため、他のゲームで見られる「世界の命運を懸けた壮大なストーリー」などと比べれば、物理的な分量はどうしても少なめに。また、間口の広いアクションパズルが故に詰まる部分も少なく、各ステージもテンポよくクリアできます。
あくまで筆者の一例ですが、エンディングを迎えるまでのプレイ時間は、ずばり「4時間32分」。ゲームに自信がある方はもっと早いと思いますし、ゲームの操作が苦手な人だともう少しかかるかもしれませんが、極端な差はつかないでしょう。
ちなみに『嘘つき姫と盲目王子』の価格は、税抜きで5,980円~6,980円。標準的なフルプライスの価格帯です。もちろんジャンルにもよりますが、ボリュームを求める方にとってはコストパフォーマンスがいいとは言えず、人によっては本作の難点と捉えても不思議はありません。
ですが、上記のプレイ時間でクリアした筆者個人のプレイ満足度は、非常に高いものだったと明言しておきます。絶妙なバランスの上に、ゲームプレイと物語が織り込まれたひとときは、2人の行く末への興味と相まって、満ち足りたプレイ体験を味わうことができました。
確かに数十時間遊ぶようなゲームと比べたら、あっという間に終わってしまいます。しかし振り返ってみると、ゲームプレイに関する思い出の大きさは、それほど違いがないことにも気付かされます。本作について伝えたいアレコレは他のゲームと比べてもなんら遜色なく、雄弁に語りたい言葉の数々はしっかりと自分の中にありました。それは、短くとも良質なプレイ体験を味わえたことが要因だと考えています。
この記事の中で、幾度か「絵本のような」という言い回しで本作を表現しましたが、価格やボリュームの面を踏まえて語るならば、本作は「しかけ絵本のようなゲーム」だったのかもしれません。切ない「嘘」を抱えた狼と、残酷な現実を知らぬ無垢な王子の旅は、ページをめくるようにボタンを押すことで展開し、様々な形を見せてプレイヤーを刺激します。
ビジュアルと音楽、ゲーム性に驚かされ、狼がついた「嘘」の顛末に息を飲み、2人がそれぞれ導き出した答えに心を動かされる。そんな“仕掛け”に一喜一憂したひとときは、「しかけ絵本」を楽しむ気持ちに似ていかもしれません。
普通の絵本と比べると少々お高い「しかけ絵本」ですが、その価値をも上回る驚きと刺激を与えてくれることもしばしばあります。そんな「しかけ絵本」と通じるような魅力を、『嘘つき姫と盲目王子』のプレイに感じる方ならば、ボリュームについて決して大きなマイナスとはならないと思います。
厳しくも美しい世界。没入感を後押しするBGMの数々。嘘が横たわる狼と王子の関係。異種間の超えがたい壁を描く展開。そんな「おはなし」を短くも濃く楽しみたい方には、『嘘つき姫と盲目王子』を強くお勧めします。プレイ開始から半日後にはきっと、本作について語りたくなっている自分に気付くことでしょう。
(C)2018 Nippon Ichi Software, Inc.
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